飯塚 本日はわざわざ川崎のこの市労連会館まで足をお運びいただきましてありがとうございます。実行委員会を代表いたしまして一言ご挨拶を申し上げたいと思います。
今日はどうしてこの川崎の地で集会を行ったのかということについて改めて皆様にお話申し上げたいと思います。7月2日に発生いたしましたタンカー底触事故、そしてその翌日早朝未明には、この川崎港に原油の第一便が到着をしたわけです。当然川崎市を上げてこの防御態勢、オイルフェンスをはじめといたしまして、それぞれ行政あるいは民間の諸団体、そして釣り船の皆さんにも協力をしていただいたわけで、その地であるという事が第一の理由であります。二つ目の理由は実はその東京湾で長い間漁業を営んで参りました川崎の旧漁業協同組合の方々、その生き残りが今日お話をいただきます長八海運の渡辺光一さんでございますが、すでに漁業権を放棄いたしまして、今、川崎には漁業というのは存在をしない事になっています。ただ、遊漁船をはじめとする営みを続けている方がいらっしゃいます。川崎には昔の浅草海苔の歴史と伝統が今でも残っています。そしてその歴史と技術を是非子供達、子孫、孫々に伝えたい。
こんな思いで今、旧漁協の理事長でありました斉藤金作さんが呼びかけ人になりまして、海苔の技術を伝来して行こうという「海の思い出館」、そうした博物館構想でございますが、この6月に川崎市長の方に陳情をさせていただきました。川崎市の方も今、この問題について前向きに取り組んでいただいており、是非、東扇島の整備の中で、この釣り師そして漁師達の思い出を是非実現をしたいと考えています。
その方々も齢70を過ぎたわけですからもういつ鬼籍に入ってもおかしくない。だからこそこの事業については一日も早く実現をして欲しい。その川崎の地であります。そんなことを交えまして、本当はカウントで行きますと東京湾イベントは第4回目でございます。「知る」・「食べる」・「考える」というこの三つのイベントをこれまで続けて参りました。
今回は緊急イベントという事で「どうする東京湾!タンカー事故緊急シンポジウム」という題名で今日はそれぞれ第一線の方々にお話をいただきたいと思います。今日それぞれ後援をしていただきました団体の方々にも心から感謝を申し上げたいと思います。そしてまた、このご当地をお貸しいただきました川崎市労連会館の皆さんにも大変お世話になったことを心から感謝申し上げまして主催者を代表して一言お礼とご挨拶に変えさせていただきます。
ありがとうございました。
実行委員長挨拶の後、船上から撮影された東京湾の海上交通の様子と7月2日ダイヤモンドグレース号の事故により流出した油回収作業の模様のスライド上映をパネリストである一柳洋と川俣恭平の解説で行い、パネル討論へ入った。
安田 本日のコーディネーターをおおせつかりました筑波大学の安田でございます。私の専門は社会システム論、特に環境政策学ということで、お手元に「環境と公害」という岩波書店から出ている雑誌に書いた「東京湾臨海部の開発と環境保全」というものをお配りしています。安全を含めた東京湾の開発と環境保全のあり方、その辺を主として研究をしておりますが、海上交通が必ずしも専門ではありませんので適任者とは言えないかも分かりませんが、本日の司会進行役を務めさせていただきたいと思います。
このタンカー事故(*1)は7月2日に起きました。プログラムの一番最後に東京湾事故史というのが書いてありますが、だいたい大きな事故が10年に一回起きているということが分かります。特に中ノ瀬というのは浅い所で漁場としても優れているし、最近首都圏第三空港の候補地にも挙げられている所でして、そういう意味では交通の面から見ると障害になっている所です。ここで大きな問題が起き、幸い油の流出量が当初の報道より少なく大事に至らなかった訳ですが、この問題を分析してみますと色々な問題があるということがだんだん分かってきています。今日は、この問題をどうとらえるかという点から、今後の対策、特に当面の対策、さらには中長期的な対策についてお話をして行きたいと考えています。
今日は大きく三つに焦点を絞ってお話を進めて行きたいと考えています。まず第一番目は、現行の非常に過密な東京湾の海上交通に対してどういう所に問題があって今回の事故が起きたのか、それからどう対処したのか、もしくはどう対処するのか。
第二番目としてこのような事故を起こさない為に、当面の対策、短期的な対応としてどう対応するのかということ。時間がありましたら、第三番目として抜本的な対策。このような事故を起こさない、万が一起きたときには被害を最小にするような仕組みというものをどう考えて行けばいいかという中長期的な対策また戦略。
これは東京湾の開発や環境保全のあり方に関係して行く問題でありますが、本日はこの三点に焦点を絞ってパネル討論を進めて行きたいと思います。
簡単に私の方からお伺いしたい点を事前にパネリストの方々にお願いしておりますが、それを皆様方の頭の中に入れていただきたいと思います。まず第一番目の現在の海上交通の問題点ということですが、今回はたまたま巨大タンカーの問題だったわけですが、東京湾には先程一柳さんのスライドで見ていただい通り、LNG船(*2)、LPG船(*3)さらにはもし事故が起こったら大変な問題になるケミカルタンカー(*4)等の危険な船が錯綜しているものでして、これについて特に海の現場でタッチされている方々にまずこの危険性について知っていただきたいということでご指摘いただきたいと考えています。この際に基本的な考え方、この東京湾の海上交通に関する事、これも是非お話いただきたいと思います。
第二番目の当面の対策、短期的にこのような問題が起きないようにするにはどうしたら良いか、万が一起きた場合にはどうしたら被害を最小に出来るかと言うことで、今日パネリストで全日本会員組合の川俣さんがいらっしゃっていますから、海員組合の方から出ている提言を少しご紹介いただき、バネリストの間で議論して行きたいと思います。それから、果たして東京湾の様な所に巨大タンカーが本来入ってきて良いのかどうかということに私は疑問を感じているのです。ある種の危険性の存在するものに関しては入港を制限すべきではないかという考えもありますが、そういう事に関してやはりご意見を伺いたいと考えています。
こういう問題が起きますと自治体が対応しなければいけない訳ですが、今日は川崎市から三好さんがいらっしゃってますので、VLCC(*5)という巨大タンカーや危険物搭載船が通過する場合に自治体にきちんと情報等が提供されているのかどうか、万が一事故が起きた場合にきちんとその情報がスムーズに速く正確に提供されているのか、さらには事故が起きた場合の対策に対する訓練やシュミレーション等が行われているのかどうか、油回収船というものがきちんと整備されているのかどうか、それから最大最悪の事故と予想されるケミカルタンカーというようなものに関する事故の対策をきちんと立てて対応が出来ているのかどうか、という問題も議論していただきたいと思います。
今回、吸着マットの他に、油処理剤がかなり使われた訳ですがこういうものを使った処理方法が正しいのかどうか。特に油処理剤が東京湾の生態系に毒性を与えないのかどうか、それからこれは後ほど大槻先生に解説していただきたいのですが、この効果に関しては淡水魚でしか実験が行われていないようですがこれで良いのかどうか、という問題について環境化学の専門家に試験とか生態学的な視点からご説明していただきたいと思います。第三番目は抜本的な対策、中長期的なと言うことですが、これは長期的な課題ということで、今後予定している第二回目、三回目のシンポジウムでも議論したいと思っています。まず一点目に平均水深15メートルという東京湾内湾に30万トンという巨大船を入れる事について問題が無いのかどうか、この辺のご意見を是非お伺いしたいと思います。
二点目としては、そういうものに対しては東京湾の入口当たりに危険船のバース(*6)を造ってパイプラインで輸送すべきではないかというような事も以前から何人かの方々から提案されていますが、このようなやり方はどうかと、これは自治体の港湾政策に関わってくる問題で極めて難しい、また長期的な問題となっています。さらに私の専門に近いのですが、東京湾は海上交通を無視した臨海部や沿岸の埋立開発が江戸時代から行われてきた訳ですが、つい最近は東京湾横断道路が今出来上がりつつあります。
横浜では南本牧が埋め立てられて先程スライドでもありましたが、航路や港湾区域が狭くなってしまう。さらには今、中ノ瀬が浅いと言うことで埋め立てて首都圏第三空港にしようという。こういうものを造って本当に事故につながらないのかどうか、この点も議論したいと思います。
以上三つの点に焦点を絞って、パネリストの方々からそれぞれお立場やお考えが違うと思うのですが、問題意識、問題提起、疑問点等についての質問、パネリスト同士の討論、そういうものを中心に展開させていただきたいと思います。
それでは第一ラウンドですが、今回のタンカー事故の問題をどのようにとらえられたのか、その辺の基本的な考え方をパネリストの方々にお話しいただきたいと考えます。
まず最初に全日本海員組合の川俣さんの方からお願いいたします。
川俣 今お話がありましたように、私の方から船員の立場で見た東京湾の航行上の問題点を中心にお話申し上げたいと思います。申すまでもありませんが、今回のダイヤモンドグレース号の事故は現在海難審判の審議中であります。海難審判は原因を究明し再発を防止するという趣旨で行われる、裁判とは性格が違うのですが、行政的な原因究明の手続きです。そこでまだ結論が出ていませんので具体的な事故原因については今まだ明確にならない部分もありますので、私の話は今までの東京湾に入っている乗組員の立場から見た問題点という点でお話申し上げたいと思います。
東京湾における問題点というのは大きく分ければ二つあるだろうと思います。ひとつは東京湾が大量の船が入り乱れて走っているということ。これはひとつの大きな問題点です。二つ目はこれだけ入り乱れて走っている船に対して湾内の航路が整備されていないということ。これが二つ目の問題点というように思います。
まず最初の入り乱れて走っているということ。これはいくつかの意味がありますが、まずひとつは交通量が極めて多いこと。二つ目はその交通の走り方と言いましょうか、交通の仕方と言うのが一定方向に多いわけではなくて東西南北あらゆる方向に走り回り、極めて複雑な走り方をしているということです。
三つ目はこの東京湾に入り乱れて走っている船の種類が多いこと。汽船あり、客船あり、漁船あり、プレジャーボートあり、あるいは工事をしている船等極めて種類が多いことがあります。
四つ目としては船の大きさも様々であるということ。この船の大きさというのは、船の操縦性能に極めて大きな影響をもたらすということであります。 さらに五つ目として挙げておかなければならないのは、この東京湾に入り乱れて走っている船では全部が日本船ではなく、外国船が極めて多いということ。外国船特有のいくつかの問題点が、少なくとも私共船乗りの立場から見るとあるのではないかということ。このような事柄が入り乱れて走っているということの中にあるだろうと思います。
航路が整備されていないという二つ目のポイントにおいても改めてお話しいたします。
まず、入り乱れて走っているということの一番目に挙げました交通量が多いということを具体的な資料によって示したいと思います。地図のある資料がございます。これの2枚目の資料3を見ていただきますと、どれくらい東京湾に船が入っているかというのが数字の上で明らかになります。これは東京ガスが航行実態調査を行ったもので、二日間つまり48時間の間に船がどういう航跡を描いて走ったかという航跡図を全部整理したものです。ここに書いてあるようにほとんど真っ黒になってしまう。二日間でこういう状況ということですが、これを具体的な数字で表したものが資料4です。先程言いましたように船は東西南北色々走っていますから、ひとつの見方として浦賀水道を走る船がどれくらいあったかということを調べたものが資料4の一番上に書いてあります。これは海上保安庁が7月〜9月にかけて三日間観測したものの一日平均ということですが、これを見ますとすべての船の種類をトータルして平成8年では663隻が浦賀水道を通ったということです。一日に600〜700隻という極めて大量の船が走っているということがひとつの特徴です。二つ目の船の種類が多いということは、資料4に書いてありますように汽船あり、汽船の中でも貨物船あり、タンカーあり、旅客船ありということで、ありとあらゆる船が東京湾には密集しているというのが現状だろうと思います。さらに三つ目のポイントとして船の大きさが様々ということですけれども、今申し上げましたように船が大きいということはそれだけ操縦性能が悪くなるということです。
プレジャーボートのように極めて操縦性能の良い船もありますけれど、それとあわせて先程お話のありましたVLCCのような原油30万トンを積む船等だいたい長さが330メートル、幅が60メートル、喫水が20メートル近くになるという大型船もあります。これらの大型船は小型船とは操縦性能は比べものにならないくらい悪い。具体的な例を挙げますと、船がある進路から30度曲げたいというときには当然先に舵を切ります。舵を35度、これはほぼいっぱいの形で舵を切るわけですが、その舵を35度切ったときに当初予定していた30度まで船が曲がるのに約60秒かかるわけです。その60秒の間に船の長さの約倍くらい船が直進してしまうということですから、300メートル級のVLCCが30度曲げようとすると、600メートル強走ってようやく船が曲がるというところにひとつ問題があります。
さらに同じようにVLCCが通常速力の一定速度で走っていて、何らかの事情が生じて全速で後進エンジンをかけたとすると、船が何メートル行ってぴたっと止まって後進を始めるかというデータもあります。今までのデータによりますと、いわゆる巨大船が満載で荷物を積んだときには船の長さの15倍程度はそのまま真っすぐ走ってようやく止まり、それから後ろに戻ってくると言われています。従って操縦性能の極めて悪い船とかなり良い船とが混在して走っているという問題があると思います。最後の乗組員、船の質等にも様々な問題があるというのは4枚目の資料7を見ていただきたいと思います。ここに「我が国の商船隊の船腹量の推移」というのがあります。我が国商船隊、すなわち日本の船会社が運行している船がここの合計欄に書いてあります。隻数で見ますと2000隻という数字があります。これは我が国の外航商船隊全部の量です。昭和57年の数字から見てみましても2000隻というのはほとんど変わっていません。ところが内訳を見ますと、この合計の中の日本籍船と外国用船というのがありますが、昭和57年では日本籍船が1175隻、外国用船が1165隻とほぼ2000隻の半分づつが日本籍船と外国用船でした。ところが一番最近のデータでは、日本籍船というのはこの中の約200隻弱しかなくなっている。残り1800隻のほとんどが外国用船に占められるようになってきた。つまり2000隻の運行隻数が変わらなくても、日本籍船が減ってきたという大きな問題があります。これがどのような問題を引き起こすかということになりますと、5枚目の資料10を見ていただきたいと思います。まず、何故外国籍船が増えたかと言うことを説明しておきますと、日本籍船においては乗組員が全員日本人ということで途上国の船員から比べれば相対的にコストが高いということです。6分の1程度の途上国の船員を使う場合、そのためには船をリベリアとかパナマとか比較的船の検査体制の弱い地域に便宜的に籍をおいて、そこで途上国の安い船員を乗せるという形がどんどん進んでいるという状況があるわけです。そこでこのような現状がどういう現象を引き起こすかという端的な例がこの資料10ということです。これは東京湾に出入りするどういう、どんな大きさの船がどこの国籍の船が、機関故障を起こしたかということを東京湾海上交通センターがこの3年間まとめたものです。この下のトータルを見ますと3年間で199隻機関故障を起こしている。つまり船の移動が自由にならない状況が生じた事ですから、一歩間違えると大事故につながる可能性があるということです。
これを見ていただくと日本が二番目に多いということになるのですが、このトン数の階層別を見てみますと、100トン未満、500トン未満、1000トン未満とあって、だいたい5000トン未満というとこれは内航です。つまり国内だけを走るもので、これはに日本人しか乗っていません。これにはまた全然別の理由で問題があるのですが、普通ここで対比される船というのは外航船ですからだいたい5000トン以上の所を見ていただきますと同じレベルで外航船の事故がどこが多いのかということが分かります。これを見ますと圧倒的にパナマ、リベリア、バハマというようなところ、いわゆる便宜置籍国(*7)と言われているのですが、乗組員の資格、訓練、あるいは船の設備面、こういうところで比較的基準のゆるいところ、目の届いていないところの事故が圧倒的に多いということが分かります。つまり、外国籍船が増える、外国人が増えるということが一面では検査の上で極めて大きな問題をもたらしている。詳細は省略しますが、事故に結びついているという問題がひとつあるということです。
二つ目の大きな問題として航路が整備されていないという点を申し上げました。1枚目の資料1の地図を見ていただきますとお分かりいただけますが、東京湾については現在、海上交通安全法という法律で航路が設定されていて、航路の中の規制が行われているのです。現在東京湾では浦賀水道航路と中ノ瀬航路という二つの航路があり、これが規制されているということです。この法律では、航路に入っている船には優先権があるというのが大きなポイントです。ここを走る時には速力も一定以下という規制がもうけられている。従って航路に入っている間は、通過する船には法律により優先権が与えられているということなのですが、これから一歩はずれると全く別の法律が適用されて優先権が無くなるという問題があります。資料2を見てください。東京湾の奥に入っている中ノ瀬航路だけを拡大したものです。これも事故に関連していますので、海上交通安全法に基づく中ノ瀬航路の通行方法にふれておきますと、この航路は南から北に北上する船だけに適用されるものです。つまり川崎、東京に入る船はここを通って行かなければなりません。しかも長さが50メートル以上という条件があります。これには例外がありまして、深さが17メートル以上の船はこの中ノ瀬航路を通らないで当分の間は中ノ瀬の西側を通ることが出来るとことになっています。今回事故を起こした西側の場所は、地図に小さく記してありますが、20メートルより浅い13メートルのところがあってこれが航路の中に約200メートル張り出しているのがお分かりいただけるかと思います。ここで船底接触を起こしたということです。何故中ノ瀬航路が当分の間通航免除されているいるのかと申しますと、実は中ノ瀬航路の南側の方に沈没船があり、水深20メートルという場所があるのです。北の方にも浅い所に沈没船があるのですが、ここが浅いので喫水の深い17メートル以上の船は必ずしもこちらを通らなくてもいいということになっています。さらに二つ目の理由としては、この中ノ瀬航路を北上して行って航路の外へ出た時、例えば今回事故を起こした船のように川崎シーバースへ入る時には、ここから左へ大角度で曲がるという操船が必要となります。そうしますと東京の方から出てくる船と横切り関係になるということで、これを避けるために大きな船は中ノ瀬の西側を通っているという事実もあります。
それでは東京の方から南へ下って浦賀水道へ抜けていく船はどんな通り方をするのかという問題がありますが、これは法律ではなく行政指導で、中ノ瀬のブイ(浮標)が入っているところから1000メートル離して南へ下って来なければなりません。ということになるのです。そうしますとダイヤモンドグレース号は自分が北上する船の左側には南下する船がある一方、細い1000メートル幅の所を北上して行ったのだろうということになります。そこで、たまたまブイの中間にあった浅瀬が約200メートル張り出しているところで底触事故を起こしたのではないか、従ってこれは決して見失ったということでは無く、このような極めて過密な状況の中で、狭い航路を走っているというところでこのような事故が生じてしまったという事ではないでしょうか。整理してみますと、これだけ過密な所でこれだけ航路幅も制限がある中で、やはり航路が整備されていない。これが東京湾の二つ目の大きな問題点ではないかと考えています。
問題点だけに絞った報告は以上です。
安田 非常に分かりやすい解説だったと思います。素人の立場から疑問点を挙げたいのですが、中ノ瀬航路の深さに制限があるので17メートル以上の船が通れないということから西側を通るという事ですが、西側の航路が北から南へ来る船との、道路で言えば分離帯が出来ていない訳ですね。ですから交錯してしまう。私が聞いた感じでは陸上でいう信号にあたるものが十分整備されていないような気がして、そういう意味ではおそらくデータが無いのでしょうけれども、飛行機で言うニアミスに当たる事件が相当起きているのではないかという気がするのですが。その辺はどうでしょうか。
川俣 実は今回の事故を契機に私共も船長経験者の皆様方と色々意見交換して座談会等もやっているのですが、異口同音に言ったのが、やはり船長さんの立場からすれば中ノ瀬航路が整備されれば、この中は優先権が保証されている訳ですから、やっぱりこっちを通りたいということです。しかし、今言った技術的問題等から、なかなかここばかり通れない船がやむを得ず中ノ瀬の西側を通る。そうするとこれはこの後の当面の対策に関連する問題ですけれども、この中でダイヤモンドグレース号が船底接触したと見られる200メートル水路から出っ張っている部分がありますね、ここは水路の中といいますが、水路の西側を走っていても200メートル出っ張っているわけですから、それ以上深い船は必ずここで接触を起こすわけですが、ここの先端にブイを是非置いて欲しいということがひとつありました。
二つ目は基本的に中ノ瀬航路の中の沈没船を何とか掃海、浚渫して深さをもう少し、23メートルなりに掘り下げて欲しい。これを早急にやって欲しいということ。三つ目は今ご指摘がありましたように中ノ瀬の西側は現在南航船と北航船が、ある意味入り乱れて走っている状況なので、ここを整備するために北上する船と南下する船の間にブイを入れて行きと戻りの船を整流してくれないか。そういうブイの置き方ができないのかというのが船長経験者の皆様のお話にありました。私共も重要なことですし、すぐに出来る措置なんではないかと思っております。
安田 東京湾というのは私が知る限りでは世界でも最も豊かな海でして、非常に素晴らしい漁場があるわけです。特にこの問題の中ノ瀬が非常に良い漁場であると聞いておりますし、また身近なレジャースペースということで遊漁船や様々なレジャーボート等も出ています。そのような船をやっている渡辺さんの立場から、今回のこの事故をどう受けとめたのか簡単にお話いただきたいと思います。
渡辺 大型船から見ると邪魔な存在に当たる小舟の立場からお話したいと思うのですけれども、昔は東京湾は港も整備されていなくて、水深も浅く、大型船は入って来られない状態でした。我々漁民や遊漁船業者の為の海でございました。戦後は企業優先の政策に基づきまして、港がどんどん整備され、開発、浚渫して大型船の入れる港を造りました。それに伴って大型船、数々の船が埠頭を利用するために入ってくるようになりました。
今現在もこの狭い航路を通って船が入るには埠頭が多すぎるんですね。この埠頭を利用するためにたくさんの船が入るということは、今はラッシュ時には3分、5分の間隔で船がこの浦賀水道を通るわけですけれども、今現在も危険な状態にあるわけです。いつ事故が起きてもおかしくないんじゃないか、という状態にあると思うのですけども、これでまだ東京の新海面処分場、また南本牧を開発していますけれども、これが出来上がるとまた埠頭になりまして、今よりより一層の船数が航行することになると思います。
問題点ですが、今の東京湾、入り口の狭い東京湾では現在の埠頭を利用するための船は通れない状態にあると思います。これを船数を整理するとか何とかしないといけません。開発によりまして海が少なくなりました。その関係で航路を設定しましても、そこへ漁師と大型船と入り乱れて操業する。これはやむを得ないことだと思います。そんな関係で船の交通整理と申しますか、大型船は20分おきに入港するとか、何か整理が必要ではないかと思います。
安田 今回のダイヤモンドグレース号の事故の時に、先程スライドでもありましたが油の回収等もやられたんですか。
渡辺 私はちょっと留守にしておりましたが、うちの方からは組合で出てやりました。
安田 それからその後漁獲が減ったとか、被害が出たという事はございませんでしょうか。
渡辺 私の方は三日間営業をやめました。
安田 それは自主的にですか。
渡辺 はい。それと一週間位経ってですか、これはそれが原因かどうか分からないんですけれども、本牧でメバルが大量に死んで浮き上がりました。これは油処理剤のせいかはっきりしないのですけれども。
安田 その件は後ほど大槻先生からも教えていただきたいと思います。色々な意味での被害ですね、三日間営業できなかったとか、(油処理剤が原因であるとは断定できないが)メバルが浮き上がったとか、そのような被害は実際に出てきているということですね。
先程も一柳さんのスライドにありましたが、フランスの衛星が撮影し宇宙開発事業団を通してインターネットで見ることの出来るもので(*8)、(写真を見ると)風とか潮流の関係で事故が起きた所から川崎側に油が広がったわけですが、それではこういう問題が起きますと、沿岸の自治体はやはり公共部門としてどういう対応をして行くのか、事前の対応ですね。それから担当者としては大変だったと思いますが、現実にこの問題が起きたときどう対応したか、その自治体の立場から今回の事故をどう受け止めたかを三好さんからご報告いただきたいと思います。
三好 私は港湾管理者の立場からこのシンポジウムに参加させていただいているわけですが、私共港湾管理者は港の管理運営、それを主な業務としておりますので、どうしても今日のお話もそれを中心としたものになると思います。まず前段その点についてご理解を賜りたいと思います。
コーディネーターの安田さんから言われました通り、今回のダイヤモンドグレース号によりまして港湾管理者として防除処理等を行いましたので、その辺の問題点等を皆様方にご報告しながら討論に参加して行きたいと思います。
ご承知の通り、今回ダイヤモンドグレース号による底触事故が起きました東京湾は、日本を代表する重要港湾が立地しているところであります。従いまして今回のこのような流出事故といった部分につきましては港湾管理者の立場からしても、その対策を抜本的に検討して行かなくてはならないというような認識に立っているところでございます。しかしながら、今回起きました事故の場所が私共港湾区域外でございますので、やはり一時的には海上保安庁による防除活動等がなされておりまして、私共はその流出した油が港内に入ってきた海岸線を中心に処理を行わせていただきました。従いまして、7月2日に原油が流出いたしまして、それに伴い川崎港にまず油が漂着したのが同じ日の夕方でございます。当日私も市の所属船に乗りまして海域を巡回して参りました。まず第一に感じたのはすでに揮発性の高い原油が流れたということで、まず異臭を強く感じました。
そして時間が経過する毎にはじめは油膜程度の流出であったものが、だんだん若干の油層を帯び、川崎港へ漂着したというような状況でございます。それに対する港湾局の処理といたしまして、やはり港域内の船舶の安全なり、諸々の施設の保全をはかるために何らかの防除処置をとらなければならないということで、まず最初に港湾局が行いましたのは、それぞれの各航路をオイルフェンスによって閉鎖するという措置をとりました。私共はオイルフェンスを当然備蓄しているわけなんですけれども、正直を言いまして、この展張訓練、日常の訓練が思うように出来ませんでしたので、その結果として当初短時間で出来る予定であったものが、通常の倍位の時間を要してしまった。そのことがひとつの反省点として挙げられます。
そして二つ目といたしまして、どうしても油の性格上、潮の吹き溜まりとか処理のしづらい港内には流出油が溜まる傾向があります。そういうものにつきましては当然油そのものを回収するということが出来ませんので、先程スライドの中でご説明のありました、一柳さんは横浜と言いましたがあれは実は川崎のコンテナバースの隣にある掘割部分でございますが、あのような場所でオイルフェンスを張っても港内に油が入ってきてしまうのが実体でございます。それに対しまして私共は本来であれば、これからの議論の中で出てくると思いますが、当然の事ながら海洋生物に影響のない形で処理をしたいわけでございますけれども、必要やむを得ず油処理剤と吸着マット等によって処理をさせていただいたところでございます。しかしながらスライドで見ていただいた通り、私共はどちらかというと吸着マットを中心に今回の油処理をさせていただいたのは事実でございますけれども、海洋生物に影響のある乳化剤も使ったこともまた事実であります。私共の持っている所属船舶の処理というものは主に乳化剤による処理と吸着マットによるが中心的な処理法方でございます。そして当然の事ながら今回の原油の流出事故に伴いまして、国、管理者、民間との油処理、あるいは情報連絡についての問題点がどうであったかというのが、今後の課題として多く残っているところでございます。
そしてこの油流出事故以降、一度の会議を持った中で各港湾管理者から出てきたものが、まず情報収集が悪いと。即ち諸々の対応の情報を含めた情報入手が困難であったというのが一点出されております。二つ目に今回のような大流出事故というものを正直言って港湾管理者は考えておりませんでした。従いましてオイルフェンスを含めまして、そういう油処理に必要な防除資材、それらの備蓄量が少なかったというのも二つ目の問題として挙げられるのではないかと思います。
三つ目は油処理に対して私共の職員を含めて、地方自治体の職員が慣れていなかったという点が挙げられるところでございます。そして、やはりこれも日常の訓練の不備からだと思いますけれども、実際作業に入る時間を要してしまったというのが四つ目に挙げられます。現在これらの問題点について各港湾管理者を中心に、東京湾の連絡推進協議会の中で港湾管理者同士の意見交換を行っているところであります。しかしながらこれらはただ港湾管理者だけの問題ではございませんので、国に対しても何かしらの抜本的対応策というものを求めていく必要性があると考えております。
やはり国に対しましては海洋生物に影響のない油回収船の早期東京湾常備といった面を要望していきたいと考えております。いずれにいたしましても川崎港におきましても先程スライドでありました通り、多くの油タンカー、ケミカルタンカー等が入港しております。ちなみに川崎港だけの統計ですけれども平成8年の入港船舶としては約5万7千隻ございます。そのうちの65パーセントの約3万7千隻位が先程ご紹介いたしました油タンカーなり、高圧タンカーなり、その他の液体タンカーでございます。このように川崎港におきましても当然多くの危険性のある船舶が入港いたしますので、今後これらの防除体制というのは、川崎港をはじめとして港湾管理者が前向きな姿勢で対応せざるを得ないというのが実感でございます。
安田 ダイヤモンドグレース号の事故にどう対応したかというのをお伺いして、やはり私も市民のひとりとしてはちょっと不安だなというのを感じたんですね。率直に言って。要するに我々の理論でいうとリスクマネージメント(*9)というか、こういう事故は起きてもらいたくないわけですが、どうしても今の技術水準や色々な環境条件、社会システム、これだけの交通量の多いところでは起きてしまう。だいたいデータから見ると10年に一回こういう大きい事故が起きてそれに対するリスクマネージメントが、特にここでは港湾管理者である自治体の役割が大きいわけですが、十分対応出来ていないし、こういった事故が起きた場合に慣れていないし、通常の訓練も不十分であるということです。今回は油の流出量が少ないし、色々と不幸中の幸いであったという面があるわけですが、市民としては非常に不安を感じるわけであります。これに対してどう対応して行くのかを第二ラウンドで議論していただきたいと思います。
それでは次は東京水産大学の大槻先生からお話いただくわけですが、大槻先生は環境化学のご専門で、東京湾の生態系に与える影響等の問題について、後程油処理剤の問題を詳しくお話しいただきます。私達素人から見ていて、どうもこういう物をやたら使っていいのかどうか、東京湾の生態系にマイナスの影響を与えるのではないかと考えますと、私は化学はあまり詳しくはないのですが合成洗剤と近いような機能があり東京湾の生態系に長期的に非常にマイナスの影響を与えるのではないかと感じています。東京湾の生態系にマイナスの影響を与えないような対策というのはどうあるべきか、ということも第二ラウンドで議論したいのですが、とりあえず今回の事故とそれへの対応を専門家の大槻先生がどうとらえたかをお話いただきたいと思います。
大槻 私は油汚染の専門家ではございませんので、特に人間がつくったいわゆる環境で長く残るような、ある意味では毒性の非常に強い化合物の海での挙動というものを追っているわけでございます。 原油そのものの研究というのは5〜6年前急遽ペルシャ湾の事故がありまして、事故と言いますか、はっきり言えば戦争で流出したと、そのときにうちの大学の船が三年間向こうの大学の人達と一緒に調査に参加したという時から原油流出という汚染に関する興味を持ってやり出して来ているわけです。ですからそんなに長い経験があるわけではございません。それでコーディネーターから先程ご指摘のありました海上交通の問題点から見たときにどうかという事については、私は専門家ではありませんので、全く素人の点から問題点を出してみたいと思っています。
先程川俣さんからお話がありましたように、例えばケミカルタンカーと一言で行っていますけれども、化学薬品、工業薬品あるいは中間体と言われていますが、そういうものを運んでいる船の種類は相当に多い筈です。これはケミカルタンカーと言ってひとつでくくってしまってますけども、この中身によっては事故が起こったときの対応の仕方は無数にあるとお考えいただいた方が良いと思います。こういう点については深く入らないで、今回の原油が流出した場合もそうなんですけれども、これだけ実際に航行数が多い、そして起こったとき原油だけでも実は相当の種類があるということでございます。
皆さんがテレビでご覧になったナホトカ号の事故(*10)の重油の場合と今回起こったダイヤモンドグレース号で運んでいた原油とは大きく違うと考えていただいて結構でございます。先程対応が難しい、あるいはオイルフェンスを張るのが非常に難しいというお話がありましたけれども、私共化学的な性質を知っている人間からすれば至極当然でございます。それは運んできた原油が、実はガソリンとか灯油、軽油成分が非常に多いわけです。ですから原油そのものの、ある意味では海に出た場合の広がりの具合はナホトカ号に比べると10倍位広がるだろうと想定されます。それは後でだんだん重油成分が見えてくるわけですけれども、最初の時点では軽い成分は先に表面をずっと走ってしまって、ですから良く考えてみますと、例えば海上保安庁等でも考えていますが、オイルフェンスで最初タンカーの周りを覆う事を考えた。ですけれど今回皆さんがテレビでご覧になったように、流出した原油の周りに一所懸命オイルフェンスを張っているのですが、実は流れてしまった原油は別の所にあるわけですね。ですからタンカーから出てくる前に速く広がってしまうという、運んでくる色々な原油の性質によって対応をきめ細かく考えなくてはいけないのではないかということがひとつ考えられるわけです。一言でいうと油流出ですぐオイルフェンスというだけでは、その張り方も考えなければいけないと思います。
もうひとつ、今回はたまたま川崎、横浜には風の方向で流れ着きましたけれども、ケミカルタンカーの事だとかを考えますと、区域毎に防除体制を考えるということはある意味ではナンセンスに近い。ですから東京湾を取り巻いている自治体が国と一緒に何か考えておかないと、恐らく駄目だと。極端な言い方をすれば、今川崎のお話がありましたけれども、では横須賀へ行ったらどうか、あるいは木更津の方へ流れたらどうかということを考えると、それぞれの自治体では恐らく無理だろう。やはり全体でそれぞれに対応するということを考えておくことが今後必要になるだろうというのが私の考えです。
安田 重油と原油では全然対応や広がりも違うということがございますので、この辺はまた後程、当面の対策の方で詳しくお話しいただきたいと思います。それでは最後に海洋ジャーナリストでもあり、横須賀市議会議員である、そして我々の東京湾海洋研究会のメンバーでもあります一柳さんは今回の事故をどのよう受けとめたでしょうか。
一柳 先程スライドを見ていただきましたけれども、実はあの時、浦賀水道航路出口から川崎シーバースへ着くまで2時間位の間にパイロット(水先人)の方や船長に写真を撮りながら質問しました。そのときに今、川俣さんがお話ししていただいたようなこと、さらにもっと色々な問題をお話ししていただいたんですが、下船するときに私が言ったとはいわないでくれと言われました。パイロットの方は私が言ったといってもいいよという方はいました。しかし船会社に所属しているので船長の方は私が言ったとはいわないでくれと。当時フリーのジャーナリストで色々取材をしていると、海の情報が公開されていないということにずっと疑問を感じていました。そして6年前から横須賀市議会議員を務めていますが、これ又行政や市議会の中でも海の状況が伝わっていない。
今回、三好さんの方からいざ遭遇してみてとまどいが非常にあったということを正直にお話いただきましたけれども、これは横浜でも横須賀でも同じ状況だったと思います。そういう協議は全然してもいなかったし、例えばダイヤモンドグレース号の一ヶ月後に横須賀軍港でインデペンデンスという航空母艦から軽油が漏れた事故がありましたけれども、そのとき私はまず疑問を感じたんですが、インデペンデンスというのはご存知のようにボイラーをたいてスチームを起こして、それでタービンを回して動かします。私の常識ではボイラーをたいてスチームを起こす船は重油であると思っていたんですが、何で軽油が漏れたのだろうということを行政の職員に聞いたんですが、何で軽油という発表はおかしいんですかということなんですね。いや、スチームでタービンを回す船は重油じゃないかというふうに言ったらば、その情報も行政は全然つかんでいなかった。結果的に海上自衛隊に行って調べたら20年位前に軽油に変えたっていうんですね。そういうことが分かったんですが、じゃあこれもしですね、軽油と重油という種類を間違えて油処理をしに行ったら、全然その油の流れる速度も違うわけですし、そういう対応も違うと。
もうひとつ、今日どれくらいの論議がはじまるか分かりませんが、今まで高度経済成長期には各自治体がてんでばらばらに湾岸開発をやってきました。これは国を含めてです。今回中ノ瀬の西側で事故が起きたわけですが、すぐ隣で南本牧の埋め立てというのをやっているわけですね。この南本牧埋立の時に、横浜市議会で海の情報がどれだけあって海上交通に与える影響がどれだけあるから形態の変更をしなければいけないという論議がどれだけ起きたんだろうか、ほとんど無いと思います。こういう時は公有水面埋立法の免許を取るために市議会に報告があり論議がありますが、その前に港湾審議会というのが開かれて港湾計画をどうするかという話し合いがあるわけですが、私の調べでは東京湾岸に横須賀、横浜、川崎、東京、千葉と確か五つの港湾審議会がもたれていますが、それが公開されているのは横須賀と東京だけな筈です。申し訳ありませんけれど川崎さんはまだ公開されていませんね。横浜も公開していません。ですからその中で何が論議されているのか分からない。
私も実は横須賀の住民と弁護士で横須賀の港湾審議会を開けということで裁判にかけて、やっと公開の道を4年前に開かした経緯がございます。それまでの議事録を引っ張り出させると、海の人達が港湾審議会で、海にはこういう条件があるから、こういう計画をするから、この点が注意が必要だということをほとんどおっしゃっていない。どこの審議会でもそういう公開もまだ進んでいませんから、では人選がどうなのかという問題がございます。
今日ははじめの始まりの論議だと思いますが、東京湾にどれだけの問題があるのか。政治的、経済的、あるいは海の専門家から見たらどれだけの問題があるのかということを知っていただくことが重要ではないかと思います。今日の論議をきっかけに、これからはじまる臨時国会、そして今はじまっています各自治体の市議会、県議会でこういう問題をオープンの場で論議していただきたいということが私の願いであります。今日は国会議員の方、県会議員の方、それから先程の飯塚市議(実行委員長)のように、今までと違ってそれぞれの議員の方も参加しておられますので、今日の議論を深めて、また国会や県会や各市議会で論議を深めていただきたいと思っております。
安田 海の問題というのは魚に選挙権があればですね恐らく発言するんでしょうけれども、なかなか利害関係者が少ないということがあって、それの意志を反映する仕組みが出来ていないということもありますので、非常に難しい面があるのではないかと思います。今、一柳さんからご指摘がありましたが、これから議会とか政治、行政のレベルでも議論していただきたいと思います。
今日は第一回目ということで、まず最初に申し上げましたように第一ラウンドが終わりましたので、当面の対策、短期的な対応ということでいくつかポイントを絞って進めていきたいと思います。こういうような10年に一回位起きてしまって、もういつ起きても不思議じゃないというふうに現場の方から言われていますが、こういう事故を少なくとも防ぐにはどのようにしたらいいのか、その辺は海上交通の問題ということになると思いますが、もちろん開発の問題ともつながってきますけれども、これに関して全日本海員組合の方が提言書を出しておりますので、それら提言の内容をお話いただきながら、それに関連してパネリストの方々から色々意見を出していただいて議論を進めて行きたいと思います。
それではまた、川俣さんの方から海員組合の提言を中心にお願いしたいと思います。
川俣 先程の問題点のところでも挙げましたように、改善するためにいくつかアプローチというのでしょうか、対応の仕方があると思うのですが、すぐに出来るということがあるのではないか。あるいは少し長期的に考えておかなければならない問題、そのように仕訳しますと当面できる問題というのはつきつめて言いますと先程お話ししましたように、資料2を見ていただきますと、中ノ瀬の西側の南の方にブイA、Bという小さな字で書いてあります。この間に200メートルの出っ張りがあると、これが乗組員にとっては極めて気になる部分なんですね。
ちょっと横道にそれますけれど、先程言いましたようにこのブイから1000メートル西側は北から南へ下ってくる、東京の方から出てくる船がずっと通るわけです。そうしますと北航する船というのはこの1000メートルの間、200メートルの出っ張りがありますから正味700〜800メートル程度のところを北上して行かなくてはならない。先程触れましたけれども、海上交通安全法ではこの斜線を引いた航路内についてはこの中を走る船が優先権を持つということが書かれているのですが、この斜線から一歩出た中ノ瀬の西側というのは、別の法律と言いましょうか、海上衝突予防法というものが適用されます。
この法律ではほとんど真向かいから来たときはお互いに右に船を曲げて避けなければならない、というのが基本にあります。幅が800メートルの所で右に曲げようとしても、この浅瀬があるので曲げきれないという問題がいつでもあるのです。私共の提言というのは、この出っ張りの所にひとつ灯台を、ブイを早急に入れていただきたいということなのです。つい先頃の新聞を読みますと、実は海上保安庁もこれは極めて問題視していたようでして、次年度の予算でこの出っ張り部分にブイを入れるための予算を請求することにしたようです。ですからここは何とかなるのではないかと。
二つ目は先程言いましたように、中ノ瀬そのものを本来通れればここは優先権があるところですから、ここを通っている限り大型船でも大丈夫ですと、底を擦ることがありませんという程度の23メートル程度と我々は見ていますけれども、この浅瀬の部分、沈没船のある20メートル部分を是非掘り下げていただきたい。
三つ目はこれも先程言いましたけれども、中ノ瀬の西側に北上する船と南下する船とが実際は入り乱れて走っているのが現状です。特に外国籍船などは日本の行政指導を、1000メートル離れて南へ下るべしなんていうことまでなかなか伝わっていない可能性もある。そうしますと、船によっては必ずしもブイから1000メートル離さないで南へ下って来る。真向かいに向かい合うような感じでブイのすぐ西側に遭遇するということもあるわけで、ここの北流する船と南流する船の間にブイを入れていただいて、きっちり分けていただきたい。
これらを全部総合して、東京湾がこれだけ過密なのであるから、これを全体的に規制するような、あるいは整流するようなひとつの交通、航路方とでも言いましょうか、走り方というものを整備していただければ、私共はそれが重要ではないかと考えています。
それから直接当面する問題ではないのですけれども、資料2を見ていただきますと横浜の埋め立てというのがあります。これも今までの話しの中に出ましたが、この中ノ瀬の西側に点線で囲ってある部分があるのですが、現在これが造られているわけです。そうすると中ノ瀬の浅瀬から距離にして2800メートルです。
安田 これはいわゆる南本牧に埠頭を造るという名目ですが、実体は廃棄物の埋立地になっている所ですね。
川俣 こういう形でですね、恐らく埋め立てについては必要な事情があってどんどんこういうことが進んで来ると思うのですけれども、埋め立てが海上に延びて来ると漁業もさることながら、やはり一般の船舶の航行上にも極めて大きな支障が生ずるということで、このような埋め立てについても関係者の話を充分尊重しながら、意見交換をしながら妥当な解決策を見つけるシステムというのが必要だろうと思います。蛇足ながら私共海員組合という組織でありますけれど、一部の地区、地方の港湾審議会の委員に入っているわけです。東京都の港湾審議会には入っておりますが、その場で私共は乗組員の立場から航海の安全のための色々な意見等は申し上げているのですけれども、やはりそういう意味では埋め立てだとかこのような問題に関わる関係者の意見が充分反映出来る、あるいは議論が出来るという場の確保というものが必要だろうと思います。
それから渡辺さんの方からお話がありましたけれど、どうしても狭い水域の中で入り乱れて船が走るということになると、大型船から見ると小型船けしからんと言いますし、小型船から見ると大型船けしからんと、だいたいそういう話しになると思うのです。資料6を見てください。これは漁船の操業状況を運輸省の港湾建設局が実体で調べたもので、ちょっと古い平成元年の10月ですけれど、24時間かけてどんな種類の漁船が、どんな種類の操業をやる船がどこにいたかということをチェックしたものです。これを見ますと、浦賀水道航路それから中ノ瀬航路は漁船は避けているんですね。やはり大型船、小型船それなりにこの東京湾という限られた海域をお互いに共存しつつやっている姿が浮かび上がってくるのではないかと思います。私共としてはここを生活の場とし、ここを航行の場とする漁船の皆さん、我々汽船等の関係では決して意見が相発するものではなくてですね、お互いに共存出来るものだと、現実にかなりそういうものが進んでいるのではないかと思っています。しいて言えばもう少し全体的な意見交換をし、お互いにどうこの交通体系を組み立てて行くかということがこれから色々検討して行かなければならない課題だと思います。
もうひとつ大きな問題なのは漁船の皆さんは、こういう航路の存在も知っておられますし、色々やっているのですが、いわゆるプレジャーボートというのが最近流行っています。モーターボート等ですね。これらは極めて危険な行動をしまして、かつまた汽船、漁船等と違った走り方もしますので、我々としてはこのプレジャーボートというのが今大きな頭痛の種になっているわけです。
安田 今、海員組合の方から提案がありましたが、これを中心にどのような対応が出来るのかを考えていただきたいと思います。
最初、私素人考えで質問させていただきたいのですが、事故が起こった所にブイをつけても800メートルしかないわけですね。もし北から南へ下る船が来た場合、右に避けなければいけないわけですが、この800メートル位で避けることが出来るのですか。先程の30度曲がるのに何百メートル必要だということがありましたので、素人考えから見てもここにブイをつくっても避けることが出来るのかどうか、やはり又同じ様な事故が起きてしまうのではないかという気がするんですけれど、どうでしょうか。
川俣 ブイを置くことそのものは避けることにはなかなか結びつかないと思います。ただブイの必要性というのは、たまたまAとBというふたつのブイの間に200メートルの出っ張りが出ているということを先程から申し上げていますが、これは地図で見るからここが出っ張っていると分かりますけれども、海の上から見ると出っ張りが見えるわけじゃありません。やっぱり航海者にとってはこの部分が極めて不安ということがひとつあるんですね。少なくともブイというのはある意味では錨で支えてるものですから、強風が吹けばブイそのものは動く可能性があるんです。灯台と違って必ずしも位置を正確に確定するものではないんですけれども、やはりこの先に置いてあることによって、これより少なくとも右側に寄らないというひとつの危険線を設定する上での限界線の価値がある。ただくどいようですけれども、これは北から南へ下って来る船は1000メートル離すのが原則であっても、船によっては必ずしも1000メートル離さないで真向かいから来るものがあります。そうすると今言ったように右側に避ける余裕がまったくありませんから、進退窮まるというのは乗組員の皆さんもよく言いますね。従って極めて気を使うし、不安だというのはここを通るキャプテンの皆さんはおっしゃっています。
安田 するとこの1000メートルのところに中央分離帯みたいなブイをつくるということは、素人考えなのですがどうでしょうか。
川俣 むしろ乗組員の皆さんも望んでいるのはそこなんです。とりあえずブイを一個この出っ張りに置くということと別にですね、南と北を分けるようなブイを間に並べて置いたらどうか。資料1に浦賀水道航路というのがありますが、これは現実に、この浦賀水道航路は南に下る船、北に上がる船いずれにしても、この航路に沿って右側を通航しなければいけないというのが海上交通安全法の定めなんですね。実態としてはこの航路の真ん中にブイがずうっと打ってあります。ブイに沿ってその右側をお互いに航行するんです。そういう整流、交通の整理をして同じようにこの中ノ瀬の西側についても間にブイずうっとを入れてその右側を通航するようなシステムというのはもちろん望ましいことなのです。
一柳 川俣さんに関連で質問したいのですが、まず中ノ瀬航路の沈没船を片づけるということで、それは私も速く片づけた方が良いと思いますが、もうひとつマイナス23メートルまでいわゆる増深といいますか、浚渫をする。でもこの場合、今回起こしたようなVLCCのような船は23メートルにしても、中ノ瀬の西側を走らざるを得なくなるという疑問があるのですが、この辺の問題が解決するかどうかというのが一点ですね。
もう一点は安田さんから質問があり、川俣さんからお答えになった中央分離帯を設け、もうひとつ中ノ瀬の西側にも新たな航路をつくったほうがいい、航路を指定したほうがいいことだと。これは海上交通安全法、四半世紀前に出来た法律の改正を伴わないと出来ない問題なのか。その辺の二点を伺いたいのですが。
川俣 まず中ノ瀬航路の浚渫についてですけれど、だいたい23メートル程掘れば、厳密にいえば当然これは海技の専門家や浚渫の専門家に検討していただく事になるわけですけれども、深さが船の底から3メートル位あれば安全に走れる。ほとんど不安無しに走れる。これも蛇足になりますけれども、船というのは浅いところを走りますと沈むという特性があるんですね。これは海底と船底との流れが速くなって圧力が下がるので、それだけ船が下がるという現象が生ずるんです。船のスピードによって下がる量も違ってくる事がありますから、一概に言えないにしても、一般的に私共航海に従事する者は23メートル位ということをよく言っているわけです。これを掘ったら必ずこっちを通るのかと言うことですけれども、先程言いましたように、今17メートル以上の船が西側を通る事情というのは、ひとつがここが20メートルという浅い所があるというのが理由で、これが何メートルか掘り下げられればその難点は解決されるということになるわけですが、もうひとつの事情としては中ノ瀬を仮に使ったとして、川崎に入る船がここから急角度に左に曲がるという事を申し上げました。この曲がる時に出口から川崎までの距離が極めて短くて急角度だと、その間に東京港の方から南へ下ってくる船の横を突っ切って行かなければならない。こういう問題もあるわけです。そうしますと基本的には東京湾全体を包含するような通行方法、こういったものをきちんと整備するというのが重要な事ではなかろうかと思います。つまり仮に中ノ瀬が23メートルに掘削されても、船によっては、あるいは船長さんによっては川崎に入る時等、航路や相手船を突っ切る際の危険性、危険の大きさを判断して、やはり西側を通ろうかという人がいるかもしれません。
それから航路を設定する場合についてですが、これは海上衝突予防法の問題というよりは、基本的には恐らく海上交通安全法の中でですね、今東京湾では浦賀水道航路と中ノ瀬航路のふたつだけが具体的に航路として指定されていますが、例えば中ノ瀬西側航路というような形で海上交通安全法の中にもう一カ所航路指定が行われると、こういった形になるのではないかと考えられますが。
安田 先程の川俣さんの資料6で漁船の操業状況等の説明もありまして、漁師と共存してるんじゃないかとの説もあったのですが、現場から見て本当に共存出来ているのかどうか。それから海員組合の提言等は、今の漁船、遊漁船から見て実現可能かどうか、その辺をふまえて渡辺さんの方からご意見や評価をいただければと思います。
渡辺 確かに航路は出来るだけ避けてやるようにはしているんですけれども、それでもどうしても中へ入らないといけない時もあるんですよ。ですからこれだけで一概に共存てわけにもいかなくて、その時期によっては結構航路の中でもやります。
安田 それは航路の中の方が釣れるっていう事ですか。
渡辺 そうですね。東京湾が開発で変わりまして、潮の流れとか色々変わりまして、大型船が通る航路っていうのはどうしてもスクリューでかき回すので、そこへ魚が集まりやすいんですね。流れが出ますので。それでどうしても航路の近くでやるようになるんです。大型船の立場から見ると浦賀水道航路をそのまま中ノ瀬の方に延ばしてっていうことですけど、そうなりますと資料6を見ていただきますけれども、この先中ノ瀬の西側にずっと船がいますね。ここがまた遠慮してやらなくてはならないという状態になりますので、ここをまた航路に設定するというのはなかなか...。
安田 困る。
渡辺 問題が多いと思います。
安田 それは漁師とか釣り船とかそのような船の立場から見ると困ると、漁場がなくなってしまうと。
渡辺 それでなくても漁場が少なくなってますので。
安田 三好さんどうですか。自治体の立場から見て。
三好 自治体の立場だと海上交通安全法の問題はなかなか難しい部分がありますので、個人的にちょっと川俣さんにお聞きしたいのですけれども。今、海員組合から提言された部分はやはり重要であろうと、特に船舶の航行の安全確保というのは国あるいはそれに関わる関係機関すべてがやらなくてはならなら事ですので、これについては是非海員組合としても力を注いでいただきたいなと思います。私も過去に船に乗っていた経験がありまして、やはり船舶が駆走する狭い水域を航行する場合、一番当直している航海士で気になるのは先程から言っているブイをいかに早く確認するかという事なんです。それに基づいて自分の頭の中にインプットした通るべき道、普通の陸上で言えば道路ですね、それを自分で線引きをして走っているという形で持っていっています。
従って先程言いましたように中ノ瀬のAB間で200メートル横浜寄りに浅瀬があるといった場合は、船乗りの立場から言っても早急にブイ設置、またここの安全管理を監視している所轄官庁もそれなりの対応をしていく必要性もあるんじゃないかと思います。その中で特に川俣さんが言われた、この狭水道だけの航行安全だけでなく全体の安全対策という部分で統一ある航行を決めていくべきであろうと。そういうものの考えの一貫として、この中ノ瀬と浦賀水道の航行を管理しております東京湾海上交通センターが狭水道だけの管理じゃなくて、湾全体の航行を安全管理する仕組みに変えていく行くように国にお願いするというのも重要な事じゃないかと思います。
従いまして、この辺を是非海員組合さんとしても前向きに取り組んでいただければ、私非常に助かるなと思っております。
いただいた資料9の中にもありますが、やはり今非常に日本船舶を含めて外国船員の方が混乗しております。そういう意味あいで日本船の乗組員の方につきましてはそれなりのルールあるいは設備なりが整って、海難事故を起こす要因が少なからずとも小さくなっているわけなんですけれども、やはり発展途上国の船舶については設備も老朽化しておる船も多いし、また船員さんについてもなかなか教育が行き届かない部分もありますので、そういう部分の船員さんの教育向上といったものも是非国なり関係団体で取り組んでいただきたい。そういう船舶につきましても当然私共の港湾に入って来まして岸壁等を使っていただくわけでございますから、港域外だけではなく港内においてもこのような事故の起こる可能性も出て来ますので、この辺は是非、お互いに力を合わせて取り組んで行きたいなと思っています。
安田 ちょっと質問なんですが、この川俣さんの資料1を見ていただくと、観音崎の所に東京湾海上交通センターというのがございますが、これはどこを管理しているんですか。東京湾の一部、もしくは東京湾全体を管理してはいないわけですか。
川俣 この東京湾海上交通安全センターというのは、東京マーチスとよく言っているんですが、1977年に出来ました海上保安庁の組織の一部です。観音崎に一番最初に高性能レーダーを設置して東京湾を監視し始め、その後本牧と浦安の三カ所に高性能レーダーが設置されるようになりまして、ほとんど湾全域をカバー出来ます。ここで高性能レーダーを使って東京湾に入って動いている船を全部チェックする。先程、海上交通安全法による航路の話しをしましたけれど、法律によると200メートル以上の船、あるいは危険船というものは、この航路に入る前に何時に入りますよということを、いちいち東京マーチスの方に連絡しなければいけないのですね。
東京マーチスは例えばその時間を見て、都合が悪ければちょっと待てとか、あるいは色々な指示をする。それから他に何時何分後にはどのような船が入るよだとか、あるいは向こうからどんな船が来るよだとかという話を必要に応じて情報提供するのです。こういう機能を持っているんですね。そういう意味では極めて役に立つというか、有効な役割を果たしている機関でありまして、私共も含め、乗組員の皆さんもこれには極めて感謝しているわけです。ただ問題があるとすれば、そこに情報を提供する、あるいは報告をしなければならないのは巨大船等の特殊船となっていることです。小さな船となると全く別なんですね。もちろん東京マーチスのレーダーには細かい船等皆映っていると思いますけれど、その船が何という名前でどうなっているのか、どっちに行くのか、どっちに行くかは分かるとと思いますが、つまりレーダーの図上では分かっていてもはっきり鮮明に動きが分かるのは大型船に限られるという難点があります。
一柳 今度のダイヤモンドグレース号の事故で私も色々調べてみたんですが、あの時には海上において南西風が15〜16メートル吹いていたから良かったという防災の専門家がおられました。もしあれが凪の状態でガス状に漂ったら、他の船舶の火によって大爆発、炎上という危険性があったんではないかという指摘がされていますが、その点は皆さん関係の方でどういう認識を持っておられるか、ここはかなり重要な点だと思うんですね。防災を考える面でいかがでしょうか。
大槻 化学の立場から見ますと、実は今ご指摘の通り非常に危険だったであろうと思います。それは今回流出した原油というのは軽質原油であったということ。それはガスになりやすい成分が非常に多かったということです。私も1万5千トンという話を聞いたときにですね、その中の40〜50パーセントは数日のうちにガス状になるだろうと、その中でマッチでタバコでも吸う漁船あるいはその他の船があったとしたらどういうことが起きるだろうということを実は一番心配いたしました。それは皆さんがガソリンのある所でタバコを吸ってはいけないのと正に同じ事でございますので、今回の場合は量も少なかったこともありますけれども、風が強かったということは非常にその危険を薄めていたとお考えいただいてよろしいと思います。
安田 そうすると今一柳さんの質問にありましたが、もし風が無くて凪状態でそこへタバコとかですね、エンジンの火とかが引火したら爆発の危険性はあったということですか。
大槻 それはもう当然あったとお考えいただいてよろしいと思います。
安田 それはどれ位の爆発の規模が想定されましたか。
大槻 それはですね、流出したところからどの位の範囲内で、つまり濃度によりますから、それがある濃度であれば爆発しますし、薄すぎれば爆発しません。ですからその濃度がどれ位広がっていたかということが分かりませんと簡単には予測出来ません。
安田 過去に外国等でそういう事例はありますか。
大槻 私が知る限りではまだ聞いていませんが。
安田 今回もそういう危険性はあったということですね。
大槻 当然あったと思います。
一柳 それとですね、これは川俣さんにお聞きした方がいいかと思うのですが、先程の便宜置籍国の問題と乗組員ですね。経済性重視でほとんど日本人の方が少ないということで、LNG船、LPG船、ケミカルタンカーもほぼ同様な状況という認識でよろしいのでしょうか。
川俣 LNG船につきましては今までは全員日本人ということで、これはLNGの買付元といいますか、輸入元である電力会社だとかこういうところは公共性の高い産業でもあり、万が一日本の近くや湾内で事故でも起こると大変なことになるということで、原則は日本人という形でやっていました。
ところが最近やはり電力会社も競争、規制緩和の時代ということで、やつぱり安い方がいい、運賃も安い方がいいということから外国人を少しづつ入れて、いわゆる混乗という形が進んでいます。もちろんこれは海員組合も関与してやっていることで、私共もこれは承知した上でやっているわけなんですが、やっぱり色々な実験を繰り返し、今ご指摘のありました外国人の皆さんのLNGに対する知識、技能というものの訓練をきちっとやっていただいて一定の水準に達していただき、達した方に乗っていただくということで船主の皆さんとも話し合ってやってはいるんです。
ただ今度の船底接触を起こした船、巨大船ですけれど26人乗組員がいました。日本人は5名です。このとき普通東京湾に入って来て、いわゆる着岸だとか錨地に入るときの当直の体制というのが、ブリッジ(船橋)にいるのが船長さんなんです。それからもうひとり三等航海士という方が側について船長を補佐して、船の位置だとか周りの動勢をアドバイスあるいは報告する。それから舵をとる人。操舵手、クォーターマスターといいます。そうしますと船には船長、三等航海士、クォーターマスターの三人。東京湾の場合等は強制水先区ですから、先程のスライドにありましたように水先人が別に乗ります。だいたいこれがブリッジにいる人達です。
大きな船で先に人がいるようには見えませんが、一番先端の方には一等航海士以下これ何人かいます。それから船の一番後ろの方に二等航海士以下ここにも何人かいます。やはり船が着岸したりブイにつないだりする時の準備をもう始めているわけです。ブリッジにいる人達は今言ったように船長、三等航海士、クォーターマスター、水先人です。今回の場合も恐らくそうだったんではないかと思いますがまだ確認していません。この中で日本人というのはキャプテン(船長)、もちろんパイロット(水先人)は日本人。恐らく三等航海士とクォーターマスターは外国の方だったと思います。つまりそういう状況の中で300メートル以上の船をそう操船しているという現実があるわけですね。そういうことからいえば、ちょっとした意思の疎通を間違えたために思いもかけない事になるという不安はやっぱりありますし、最近でこそ外国の人達と私共日本人の混乗というのが進んできましたが、外国の方々の訓練の水準というのが色々ありますからね。そういう意味で気苦労の多い船もあるだろうと思います。
安田 第一回目の問題提起にもありましたが、こういう事故は起きてもらいたくないわけですが、万が一起きたときどういうように対応するのか、私達素人から見ていると原始的対応じゃないかと、柄杓ですくったり、マット投げ込んだりですね。そういうような気がするのですが。先程、三好さんから率直にお話しいただいたのですが、日常の訓練がなかなか生かせないとか、充分な対応、備蓄が出来ていないとか、それからどういうやり方がいいのか、オイルフェンスを使うのがいいのか、油処理剤を使うのがいいのか。これに関して大槻先生からは原油と重油とでは全然対応を変えなくてはいけないというご指摘もありました。それでは現実に問題が起きたときどういう対応をすべきなのか、そのときに被害を最小にするには、日常のリスクマネージメントということでどう対応していくのか、特に自治体等はどう対応すべきなのかということ。油処理剤なんかは私ちょっと心配なんですけれども、その後の後遺症が少ないようにするには、生態系に影響を与えない対策ですね。そういうのはどうあるべきなのか、次はその辺を中心に議論してみたいと思います。最初に三好さんの方からご説明いただきたいと思うのですが、個人的意見でも結構です。
三好 今回事故を起こしましたダイヤモンドグレース号のような危険物船が川崎港に入って来る場合、どういう手続きがされるかということになりますと、大きく分けて二つございます。ひとつは国の機関に手続きしなければならない部分と港湾管理者に手続きしなければならない部分が出てきます。基本的に危険物についての一時的な取り締まりというか監督官庁は国というような形になりますので、まず港則法の規定に基づきまして、入港する前日の正午までに入港する港、即ち京浜港であれば京浜港長、川崎港であれば川崎海上保安署に船舶の船名なりトン数なり、貨物の種類というものを連絡することになっております。そして入港する連絡を行うと同時に港湾管理者にどこどこのバースに何時に着きますよという情報が入ってきます。これは当初は電話連絡等で入って来ますし、私共公共バースというということであれば、事前に申請書というような手続きで行われます。従いましてそういう点では危険物船、あるいは危険物船以外の一般船舶についての川崎港内での情報把握というものは現状では私自身出来ていると思っております。
そこで通常以外の万が一事故が起きた場合の対応ということでございますけれど、今、東京湾内におけるこのような事故の場合を想定して各地方自治体なりあるいは民間とで協議している団体といたしまして、東京湾流出対策協議会という会議がございます。しかしながらこの会議につきましてもとちらかというと発足から相当年数が経っておりまして、現状では年1〜2回程度開いて各港湾管理者、あるいは民間の方々で事故が発生した場合の体制なり防除剤の備蓄量なりそういう情報交換の場で終わっていたというのが恐らく実態ではないかなと思います。
従いまして今、これらの大量流出事故に対する対応というのは当然皆様方ご承知だと思いますけれども、ナホトカ号、そして今回のダイヤモンドグレース号の事故によりまして国も防災計画の一部見直しを行いまして、各海上保安署の各管区の中に警戒本部を設置するというような形になりました。その警戒本部が事故が発生した場合、各管理者に要請をかけてその対応策を議論するというようになっています。
それでは本市としてはどうなっているかと申し上げますと、私共といたしましては船舶の座礁なり衝突によって海上に大量の流出油が流れ出るという事故の想定ではなくて、川崎港の場合には当然ご承知のとおり工業港の性格が強い港でございますので、逆に陸上の石油コンビナートから海上に大量の油が流れるという部分を想定しておりますので、どちらかと言いますと各地域の中に防除計画を立てて防災計画に当たっていたというのがこれまでの実態です。従いまして今回の事故の教訓を受けまして、やはり陸上だけでは無く海上からの大量の流出事故というのもありますので、今、本市の地域防災計画の一部を見直しまして海上災害における新たな防災体制の確立といった部分について検討を進めているところであります。
いずれにいたしましても先程ご説明のありました通り、川崎港は工業港そして事故を起こす可能性のタンカー等の入出が多い港でございますので、やはりこれらの防災体制については早急に管理者として確立していかなくてはならないなと考えているところでございます。そして先程冒頭で申し上げました各管理者の課題につきましては今、東京湾連絡調整協議会の中でひとつひとつ問題点の洗い出しをやって、その対策を進めているところでございます。
一柳 港湾管理者は機関委任事務で神奈川県内では川崎、横浜、横須賀各市長がやっています。入ってくる港を管理する市長には情報が入ることはわかりましたが、では川崎に入る船は横須賀、横浜沖を通るわけです。その沿岸自治体には危険物搭載船の情報は入らないわけですね。
三好 法の規定から言いますと、当然入ってくる港への届け出ということになりますので、とにかく川崎へ入港するとなりますと、横浜、横須賀の港湾管理者の方はその情報を知らないというふうになっています。ただ、東京湾に入る船舶につきましては観音崎の所に民間会社ですけれども東洋信号という会社がございまして、ここで基本的に入る船舶の船名なり、時間等を把握しております。
従いまして、これは民間会社ですから今後どういうような契約の仕方をするか別にしまして、そこへ連絡を取ればある程度東京湾へ入って来る船舶の動勢については把握できると考えております。ちなみに私共川崎港もその民間会社と契約をしておりまして、東京湾に入って来る船、とりわけ川崎に入ってくる船の動勢をタイムリーにいただくというふうになっております。その点では逆に私共、横浜港とも同じような形でやっておりますので、とろうと思えば横浜港の動勢もとれます。
一柳 わかりました。東京湾沿岸の一都二県がですね先程言われた協議会等の論議を通して情報を共有するというのはそれほど難しくない、それほどお金もかかる訳でもないということですね。
もう一点なんですが、やはり横須賀市も対応にとまどったというのは、離れた所で漏れましたから川崎市さん程動揺はきたさなかったんですが、風向きが北東の風だったら大変な事だったと思います。そういう状況でですね、私も横須賀にある海上災害防止センターの方に二度ほど足を運んで話しをお聞きしたんですが、自治体は風の状況とか海流の状況とかをつかんでどこをどう油からオイルフェンスを展開して守るとか、そういうマニュアルを徹底的につくることが先決であって、やたら油処理剤やオイルフェンスを買い回ったりしないでいただきたい。
あの事故の直後はオイルフェンスメーカーに自治体から注文や問い合わせが殺到したらしいですね。 その専門家から言わせると、役人はそういう事故が起きると、どの位処理剤があるのかとか、オイルフェンスの長さは大丈夫かとか議会で質問があるので、早く買っておこうとかになる。問題は想定をきっちりして、どこをどう守るかというシュミレーションをし対策をして資材をそろえなければ役に立ちませんよ、皆さんそれ、資材会社を儲けさせるため税金を使わない方がいいですよ、と担当者が言っていました。その辺大槻さん、三好さん、川俣さんご意見があれば、又渡辺さん漁業者の立場からこういう場合はこういうふうに守ってもらわないと漁業に大打撃があるといったことがあれば伺いたいと思います。
三好 そういう海洋情報ですね、これにつきましては先程申し上げました通り各管理者が集まった協議会の中でやはり問題点としては出ています。そういう潮流あるいは潮線の情報を管理者として収集するのが不足していたということは認識しております。ただし、川崎港にかかる部分の年間を通した潮流なり色々な情報というのは、港湾計画を作成する上で必ず作り上げますので、相対的な潮の動きというものは理解しておりますけれど、今回の事故に使ったタイムリーな情報というのは持ち得なかったというのは事実であり、そり辺は第三管区海上保安部がタイムリーな情報を持っておりますし、またひとつ我々も船舶には必ずある潮汐表等を見ながら勉強することも出来ます。やはり、我々管理者としても勉強しながら万一起きたときの事故の場合の対応策というのは考えて行かなくてはならないと思っております。
渡辺 油の回収とかそのようなことは分からないのですけれども、私の方の立場からして処理というよりも、回収という方法で行って欲しいと思っております。運輸省に油回収船がありますね。吸着マットとかそういうものは話に出て来るのですが、回収船の話しは全然出て来ません。こういう時には役に立たないのでしょうか。このところをお伺いしたいのですが。
安田 日本海の事故(ナホトカ号)の時、名古屋から油回収船が行ったというのがありましたね。大槻先生何かありましたらどうぞ。
大槻 お答えになるかどうか分かりませんが、私、運輸省の方の審議会の特別部会の委員をやっておりますのでお話ししてみます。船に乗っている方はご存知なんですけれども、日本海の冬場の荒波では小さな油回収船ではそう簡単に回収する作業は出来ない。従って、少なくとも数千トン以上の大きさが必要であろうということは皆さん認識していらっしゃつたようです。問題は、運輸省としてもそういう回収船を日本海にも、それから太平洋側にも持っていたいということは確かに言っているいるのですが、これは今行われている行政改革の問題とも絡んでいるんです。どういうことかと言いますと、例えば回収船を造りたいということになって100億円が要るとします。そうするとそのお金を捻出するのは、今まで決まった運輸省の予算の中から工面をしなければならないんです。
つまりそういう問題が起こった時にですね、財源は他にある訳じゃないんです。ですから運輸省の中にある今までの予算の枠の中から工面をしなくてはならないわけですから、例えば航路使用の問題など出ていましたけれども、そのお金は海上保安庁の中でつくらなければいけない。例えば公共事業で要らないような所の道路を造ったりしているわけですけれども、そういうお金を持ってくることが出来ない状態であるということです。これが審議会に行って聞いていて一番じれったい問題でして、皆さんもご存知だろうと思います。
それから今回の問題についてちょっとお話しておきたいのですが、海上保安庁もちゃんとしたマニュアルを作ろうとしております。今回、東京湾の問題につきましては自治体の方は是非石油連盟に問い合わせてみたらよろしいだろうと思います。石油連盟の方では東京湾内で起こった事故については、例えば風向、風力ですね、風の強さによってどういうように流れるかというシュミレーションのモデルを作っておりまして、それを必要な所に無料で配布するようなことをやっていらっしゃいます。ですから、お問い合わせいただければ多分提供していただけるでしょうし、どういう様に使うという事まで指導して下さるだろうと思っております。
私の立場から言えば、例えばこういう原油の流出が起こった時にどうしたらいいかということなんですが、一般論として考えるよりも、やはり東京湾という特殊性を考慮してどう対処するかという方法を作っておかなければいけないだろうと思います。つまり、東京湾とこの間起きたナホトカ号の場合、運んでいた油の性質が違いますと同時に、全然場所が違います。つまり閉鎖的な海域が東京湾であるのに比べて、ナホトカ号の場合は外洋に面していた。ですから大きな海流もあります。大変だったのはやはり海岸に漂着した重油をどうするかという問題が一番多かったわけですね。
今回の場合を見てみますと、やはり東京湾というのは地形的に全く違うということでございます。概算しますと、東京湾の水がだいたい入れ換わるのには最低一ヵ月以上かかるだろうということでございます。日本海の場合の数日かかればそこを去って行ってしまういうものとは全然違うということでございます。
そこで東京湾だけの特性を考えますと、はっきり言える事は、このような事故の場合どういう原油を船が運んでいたかという情報をある決まった所に必ず伝えておくことです。そして流出したときそれが分かれば、それなりに専門家はいらっしゃるわけですから、対応の仕方も考えられるだろうと思うのです。ただし、原油と重油ひと固めでその対策だけを考えておくと、実は実際それが役立たない、つまり一般論では役立たないということになるだろうと思います。東京湾の場合は私に言わせますと、先程ご指摘のありましたように、その性質が分かった時点でやはり油の回収マットあるいは回収船を使ってやるのが一番だろうと。その理由をいくつか計算してみましたのでお話してみます。今回は真夏に起きました。真夏になりますと海は表面が暖められて水温が高くなります。お風呂と同じように表層だけが軽くて上に留まって、下の方が冷たいということは皆さん経験しておられると思いますが、そういう状態が夏には起こっております。ですから東京湾といってもここでは平均15メートルと書いてありますけれども、夏場ですと水が回る所はせいぜい7メートル位の所しか無いんです。深さとしては半分位しか無いんです。
そしてもうひとつは、今回油処理剤というものが使われたということで皆さん新聞でもご存知だと思いますが、いくつか私が(パンフレットに)要約しておきました。これは界面活性剤工業界から報告されたものを概略して、それには油処理剤成分について書いてありますけれども、化合物そのものについてははっきり言いまして毒性はありません。ありませんと言って良いと思います。
ではそれはどういうことを言っているかと申しますと、20年近く前に色々な経験をしております。つまり処理剤を使った事によって生態系がすごく壊されたということもあるし、毒性試験をやったために非常に毒だということも分かってきていまして、現在使われているような界面活性剤と言われるもの、いわゆる非イオン性と言っていますけれども、海みたいに色々な塩類が溶けている所ではそういうものでないと界面活性剤には使えないわけでございまして、特に現在使われているものは皆さんのご家庭で油が付いたお茶碗を洗っている洗剤と性質はほぼ同じとお考えいただいて結構です。ある意味石鹸に近いとお考えいただいてよろしいと思います。ただし私が心配いたしますのは、そういう化合物の毒性というよりも、実は油処理剤をそのものを撒くということはどういうことかと言うことを、もう一度考え直しておかなければいけないと思います。端的に言いますと、実は処理をしていない未処理の排水をボコンと海に、その表層に撒いたと同じように考えていただいて結構なわけです。例えばBOD(*11)と言っていますけれども、生物が利用する有機物の量を酸素で表したものですけれども、だいたい未処理の原水ですとだいたい200ppm位で、実際その中のカーボン量を理論的に計算して出してみて、その有機物が海に撒かれたときに細菌類がそれを壊すためにどの位の酸素を使うかというのを計算します。そうしていきますと、私の計算では今回撒かれたという油処理剤の量がだいたい150キロリットルといたしまして、炭素量を計算しますとだいたい112×106グラムですね。112トン、これは有機炭素としてそれ位になるということです。
これが必要とする酸素量を全部合わせて計算してみますと、だいたい7キロメートル平方の海域の酸素が全部無くなるという位、撒いた油処理剤の量は多いということなんです。7キロメートル平方です。それからもうひとつ、今お話ししました炭素量から見た未処理の排水量等を見てみますと、だいたい未処理の工場排水の量は、例えばプールの大きさが50×20×1.6メートルだとしますと、その水が最低1000杯いっぺんにボーンとそこに投げられたという量に相当します。あるいは芝浦処理場なんかを考えてみますと、処理した後、例えば1秒間にどれ位の水の量が出てるかと言いますと、だいたい1秒間に10トン前後です。ですから下水処理したもので無い、いわゆる未処理の排水が丸二日間あるところからバァーッとそこだけに流れたということになります。多摩川で言いますと、だいたい平均の流速が40t/secですね。1秒間にですね。その多摩川の水が未処理の水と同じ様な水質で流れ込んだとしますと、それが12時間流れ込んでそこへ入ったということを意味するわけです。
それを微生物が食べるために酸素を利用するということになりまして、明らかに酸欠が起こるということが想定されます。それは気象条件とも絡んでおりまして、海の場合は光のある所であれば水中の植物プランクトンが光合成をして酸素を出しますけれども、夜は酸素を出さないどころか自分でも一部水の中に溶けている酸素を使います。ですから大気から入ることが油膜で妨害されると、夜は全く酸素の供給がと無くなってしまいます。そういうことがまた考えられるわけです。
もうひとつはですね、先程渡辺さんからご指摘があったメバルが一週間後に死んでいるのが見られたということですが、これがあるとすればやはり溶存酸素の減少が一時問題であったというように私は解釈しております。今回の場合はある意味では幸いな事に、先程もありましたけれども気象条件が、風が強かったということがありました。事故後二日間程は確か風が最低5〜6メートル位あったということで、海の表面が波打つことによって大気中の酸素が溶けやすくなった筈なんですけれども、それによりも微生物が使う方が多かったという場合が当然考えられるわけです。
そのような意味で言いますと、油処理剤の利用法というのも、よっぽど考えないといけないだろうと、つまり生態系に与える影響は相当大きかったろうと思います。特にあの時期は、小さな稚魚が群体になって動いている時期でございまして、水中カメラマンの方が写真を撮られても稚魚の死んだのは写りませんから、大きいものだと分かるのですが、小さいものについては分かりませんから、そういう面で見ますとやはり半年なり一年近く経ってみないと、その酸素が足りなくなったというのは分からない可能性があります。そういうことだけはちょっと否定しておきたいと思います。
安田 我々が台所で使う合成洗剤ですね、普通は下水道で処理して、二次処理、三次処理して海に流します。それを処理しないものが海に流れてしまった考えてよろしいのでしょうか。
大槻 そういうことです。
安田 今のお話を伺っていて、酸欠状態が起きるということを考えると、これはどうですか、禁止すべきじゃないかと私は感じたんですが。
一柳 実はそういう問題を含めて東京湾海上災害防止センターの専門の方に聞きに行ったんですが、これはその時の受け売りで言います。私のコメントでは無く。それで大槻先生から反論をいただいた方が良いと思います。
まず一点、回収方式なんですが、その彼が言うのには、清龍丸(*12)のような船は東京湾内に持ってきても、今回の油のようなものには役に立たない。と言うのは、今回のようなものは早く拡散しないように素早くオイルフェンスを展開して寄せ集めて、掃除機の大きいようなものを入れてズズズッと吸っちゃった方が早いんだと。それには清龍丸はそんなに小回りもきかないし、回収口はごく僅かで、それには向かないので止めた方がいい。むしろ、タグボートとかに簡便に持って行ける油回収機を用意してオイルフェンスで囲った所をすくった方が良いと。それはなるほどなと思いました。
もう一点、今度の油処理剤の問題で、私もその災害防止センターに行って水槽実験を見せてもらいました。その時の説明で、実は外洋で撒いたら魚が増えたという説明をされたんですよ。それはある意味では大槻先生のご指摘と同じで、富栄養化をもたらすんだと。東京湾のような過栄養価の所に富栄養化をもたらされたら困るということがあるんですが、その時の係官が言ったのは、二十数年前ですか、ヨーロッパでトリーキャニオン号(*13)というタンカーの大流出事故があって、それまでヨーロッパも回収方式であったのが、それ以降は油処理剤中心主義に変わったと。
アメリカはアラスカのバルディーズ号(*14)の流出事故以前は100パーセント回収主義であった。環境問題を考え100パーセント回収主義であったのが、バルディーズの事故以来少し風向きが変わったと、その彼は説明していました。日本では海上保安庁の指導は二割を油処理剤で八割を回収しろと言っているんだから処理剤でいいんだ、というような説明を自治体の職員等の研修に対して言われておりました。
実際に水深2メートル半位あるアクリルの水槽で、そこへ海水を入れたところにビーカーから原油等を注いで、油処理剤を入れるんですね。すると油処理剤ですから細かい粒子になって漂うと。その彼が言うには、油処理剤が海底に漂っていたというのはこれを見ても分かるように、そんなの有り得ないんだと、これはあくまで光合成とか紫外線によって分解を促進するものなので沈まないんだと、粒子が細かくて沈まないんだと言うんですね。むしろ今まで日本は回収主義に重点を置いていたが、油処理剤というのはことほど左様だ。それから成分も7〜8日で90数パーセント分解するし、ヒメダカを3万ppm溶液で飼っても死なないから大丈夫なんだというようなことをおっしゃっていた、という印象で帰って来たんですがね。
そういうような事に対する反論というか、いや事実と違うんではないかということがありましたら聞かせて下さい。
大槻 外国と比べるというのは非常に問題があると思います。はっきり言いますと日本は水産国であり、あらゆる所でお魚を捕り、そして釣りをして我々も楽しんだりしているわけです。外国の場合は北欧といくつかの海流を除くと日本ほど海岸を利用している所はあまり無いわけです。バルディーズ号の場合もそうなんですけれども、最近論文集が出ておりますが、油処理剤の効果はあったというふうには書いておりません。実は陸上に打ち上げられた油に栄養と一緒に油処理剤を撒いておくと、これはバイオメデュエーションと言い微生物を含んでいるような処理剤なんですが、綺麗になる所があったということだけは写真なんかでも見せられておりますけれども、写真で見ただけではこの生態系は分からないわけですね。実は、その石をはいで見ますとその下には生きものがいなかったりということが実際に起こっているわけです。これはペルシャ湾等の例でもそうであります。サウジアラビアの東岸なんですけれども、原油が流れ着く。そこは砂漠地帯なもんですから、ある時期には季節風によって砂が運ばれて来ますので、その油を全部被せてしまう。ですから次の年に行ってみると原油が吹き寄せられている所を探すのが大変なんですね。だけども海岸に行って掘ると油がどんどん出てくる。ですから砂の中に生きているカニ類だとかそういうものはほとんど見つからない、というような報告もございますので、一概に外国の例をそのまま当てはめるというのは非常に危険があるだろうと思います。
日本の場合は、実際に水産業として食べている、捕っているお魚の種類も外国と比較にならないほど多いわけです。外国では食べないようなものを喜んで食べているわけでして、そういうものについては外国では水産業として認められていないわけです。特にアメリカの例を挙げてみますと、サケそれからニシン、そういうものにはかなり重点をおいて調査されていますけれども、その他の魚については注意がはらわれていないということが多いわけでございます。
そのようなことから言いますと、私としては未だに東京湾であれ回収船を使うのが良かろうと思います。今回清龍丸というのが名古屋から来てやっていました。私、上からヘリコプターに乗せていただいて見ていましたけれども、いわゆるガスになるような成分が全部とんでしまいますと、重油成分だけが残ってきてある程度固まってきます。そのふわふわ浮いているやつについて清龍丸でやりますと非常に綺麗に取れるているのですが、今回の場合はガス状になって飛んでいってしまった。海に残ったであろうと言われるものはだいたい半分以下であろうと想定される位少ないものでして、そういうところでは効果が無かったんだというふうにおっしゃるのには意味があったんだろうと思います。大気に出て行ってしまっているため、回収された量が非常に少なかったということではなかったかと思います。あれが起こったとき、私もたずねられたので、いや大丈夫だと、つまり軽質の重油ということを知りませんでしたから、普通の原油であれば海上保安庁が今まで使ってきたオイルフェンスで囲えばある程度は外へ広がらないように出来るよというふうに言ってしまったんですけれども、後でテレビを見たり、上から見てみますと、そんなもんじゃないわけですね。石油連盟などが話しているのを聞いてみますと、かなり大きな事故が起こっても、それを取り巻くだけのオイルフェンスは自分の所にも備蓄してあるし、各自治体の物を全部合わせれば対応できるという量を持っていると自信を持っていたわけですね。ですけれど今回の場合は、はっきり言いますと、あのオイルフェンスは役に立たなかったろうというのが私の実感です。広がりすぎていて、油回収船で取ろうと思っても薄すぎて効率が悪かったというのは正におっしゃる通りです。ただし、東京湾みたいな所ではあれをやる以外は無いだろうということです。
もうひとつは、地域によってその海岸等がどのように使われているかによって、その処理の仕方というのが変わって来る可能性があります。リクリェーションの地域があったとすれば多くの場合は油処理剤を使って、その海岸に海水浴客が来なくなるようなことがあったら困るわけですから、それを使うということはイギリスなんかでは出来ているようですけれども、日本では東京湾なりそういう事が無いわけですね。ですから別の方法というのが当然考えられて良いので、外国がやっているから日本でこれでいいということにはならないだろうと考えています。
一柳 もう一点なんですけれども、私もその係官の説明を聞いていていくつかの疑問があったんですが、今回は中ノ瀬で船底接触の事故でしたが、例えば木更津とかにもシーバース(京葉シーバース)がありましたよね。木更津等でそういう事故が起きたとして、西風が吹いていた。それで油処理剤を撒いたとする。そうすると木更津にはまだ東京湾最大という干潟がございますね。いっぱいの二枚貝、アサリ、バカガイ(アオヤギ)とかがとれている。そういう所に油処理剤が細かい粒子になって大量に押し寄せるということは考えられるのですが、何であの毒性実験がヒメダカという淡水魚だけなのか。当然油処理剤を撒くというのは海洋でしかないわけですし、東京湾の内湾の干潟が側にあるような所ですと二枚貝に対する被害とかが予想されるのに、そういう毒性のテストがやられていなくて、ヒメダカが3万ppmの溶液の中で生きているから安全だ安全だと言うんですかね。この辺は大槻先生の立場から見るとどうなんでしょうか。
大槻 こういうことをやっている研究分野があるわけですか、私その分野に入っていないのでちょっと分かりませんが、私の知識から言いますと、ヒメダカでやる、それから海のケイ藻であるスケルトネマというものを使って試験をするというのが普通になっているようでして、植物であれば淡水であれ海水であれそんなに大きな違いが無かろうというのが前提となっております。
特にヒメダカを使うという理由は、お魚のひとつの代表でして、普段自分達で簡単に飼えるということがあると思います。その便利さでテスト生物として使うと。ところが海のお魚を自分の所で飼おうと思いますと、皆さんもご存知のように少なくとも熱帯魚のような装置でやらないとそう簡単には飼えない。それから海水も買って来ないと使えないというような色々な面があるわけですね。ですからそういう意味で言いますと、テスト生物として仕方がなかったという面はあるだろうと思います。
現在は水産庁の中央水産研究所でも、テスト生物として海の魚を出来ないだろうかということの研究はやっていると聞いております。
それから先程ちょっとお答えするのを忘れたんですが、原油流出の場合に油処理剤を撒いても沈殿しないというお話が出ましたが、油処理剤は、石油つまり原油から取った成分の中に界面活性剤を溶かしているわけです。その理由は、ナホトカ号みたいな重油で固まっているような場合に界面活性剤を撒いても、乳化と言っていますけれど、簡単に小さな粒にならないわけですね。ですから溶剤を入れて少し溶かしてやって出来るだけ小さな粒になりやすいようにしてやって、界面活性剤の作用をうまく働かせようという考えのもとに、つまり飽和の炭化水素系の溶剤に溶かして入れて撒くといったことをやっているわけです。ですから実際に乳化した粒は比重を考えますと海水よりもはるかに軽いわけでして、理屈はその通りなんです。
けれども海の中には色々な生物がいまして、例えば東京湾なんかでもケイ藻と言われるケイ酸の殻ですね、ケイ藻土と言われる皆さん陶芸なんかやっている方はご存知だと思いますけれど、粘土の殻を持ったようなものなんかがいるわけです。そういうものが原油の粒子とぶつかり合って、小さなコアギュレートと言いますけれども、凝集して大きな固まりとなってきますと、比重は海水のそれよりも大きくなる。そういうような事が起きると沈殿するっていうことは起こりうる。私共がペルシャ湾を調査したとき、衛星で見られた何キロにも渡る原油の浮いていたものが突如として無くなってしまった。サウジアラビアの研究者は、自分達が実験室でやると3年もやってたって絶対に沈まない、だから底へ落っこって行くことは無いというわけですけれども、実際に40〜50メートルの所で泥をとってみますと、大きい固まりでは見つかりませんけれども、タールボール(石油塊)というようなものが時間を経ると軽い部分をどんどん微生物に食べられてしまって重たくなってくる。それは無機の成分も一部含んでいるのですけれども、そうすると比重が大きくなって沈殿する場合だってあるということは分かっています。
三好 私は今回の事故で何回となく現場へ行きまして、油回収あるいは処理の作業を実態として見てきました。その中で今、油回収船なり処理剤の善し悪しと言われているわけなんですけれども、それは流れ出た状態によるのではないかというのがまず一点言えるのではないかなと。大槻先生からも言われました通り、油層がある程度厚くなりますといくら油処理剤を撒いたって回収は出来ません。
また、吸着マットを上にのせても、もう吸い取ってくれないでマットも飛んで行ってしまいます。ある程度油層になった状態で油が流れている、流出しているという場合は油回収船が一番その能力を発揮するんじゃないかなと現実に感じました。
そして、吸着マットを使うか油処理剤を使うかというのは、やはりそこに漂着した油の状態を見て判断をしてやらざるを得ない。即ち海岸線が垂直に建っている構造物に漂着したものであれば、そしてある程度油膜が薄ければ吸着マットがそれなりの能力を発揮します。しかしながら、その海岸線の構造物が奥まった、例えば桟橋みたいな物の中にいくらマットを投げ込もうとしても油まで届きませんので、その時はやむを得ず油処理剤で処理して早期の作業を進めて行かなくてはならないと私は考えています。そういう意味では、どれが一番良くてどれが駄目というのではなく、海洋生物に与える影響も考えつつ、どういう方法を選択したら一番防除処理が出来るかといったもののマニュアル作りが一番大切じゃないかなと思います。そういう中で今後も極力海洋生物に与える影響を少なくするような処理体制というものを作り上げて行く必要があるのではないかなと、現場に実際行った人間として感じたところです。
安田 今、当面の対策ということで油処理剤の問題に焦点が絞られ、かなり専門的なお話になりましたが、次の話題に入りたいと思います。
第三番目の抜本的な対策、中長期的な対策ということですが、この東京湾の開発のあり方、環境保全のあり方を含めた問題を議論したいと思います。例えばこのように人口密度も高い、船の交通密度も高い東京湾内湾という閉鎖性水域に本来こういう巨大船、30万トンのタンカーとか、万が一事故が起きたら大変な事故になると考えられるケミカルタンカー等を入れていいのか。さらに亡くなられた田尻宗昭さん(*15)は東京湾人工島なんかにタンカー等がもしぶつかった場合に大変な事故になるんじゃないかと、爆発とか炎上が起きるんじゃないかというご指摘をされていたと思います。そういう問題を含めて中長期的な問題、政策的な問題、開発と環境保全のあり方等の問題、これは第二回目のシンポジウムも考えておりますので、そこでも本格的に議論して行くつもりですが、こういうものにも一般の方は関心があると思いますので、この辺を残りの時間で議論して行きたいと思います。
最初は一柳さんから行ってもらいましょうか。
一柳 今、安田さんから話しが出ました田尻さんは数年前に亡くなられました。それから大須賀信吉さん(*16)という今年75歳になられたパイロットがおられます。その大須賀さんと田尻さんの対談が「東京湾の保全と再生」(*17)という本に載っています。そこにこういうくだりがあるんですね。大須賀さんがこう言っています。LNG基地を扇島に造る時に、なぜ東京湾の湾口、具体的には湾口といってもかなり中側の富津辺りに港を造らなかったかという指摘があります。では何故そうなのかと言うと、LNG船は満タンか空にしないと、ロールオーバーと言って船がシケで揺れると勝手に爆発し出すと、そういう危険船を人口密度の高い所に入れてもし爆発したらどうするんだと言っているんです。
LNG船がLNG基地にどんどん荷を揚げている時に、例えば春一番が吹いた時とか台湾坊主が来た時、海上保安庁はそういう大型船は気象の急転の時には沖に出ろということを言っているんだけれども、中途で、50パーセント陸揚げした段階で船なんかもう動かせないんだと。この船は動かしたら爆発の危険性がある。そういう危険性がある船を扇島に入れるということは船乗りの立場からするとゆゆしい事だと、この本の中で指摘されているんです。
短期的には今までお話しした緊急に取り組む課題というのをやって行かなければいけないんですが、中長期的には先程お話しした海上交通安全法の見直し、これも色々な利害関係があるので議論しなければいけないのですが、もうひとつの視点としてこの大須賀さんが言われているような視点が論議の対象になるのかどうか。これを川俣さんにお聞きしたいのですが。
川俣 私共船乗りの一般的な感覚としては、LNGあるいはLPGというのは管理の仕方にもよるわけですけれども、運送管理上は普通のタンカーより安全ではないかと思います。むしろ手間もかからないし、安全ではないかと言う見方もあります。これはLPGの特性なり原油の特性なりの違いを化学的見地から見てこないと、私共素人なので安全か不安かというのはなかなか言えません。ただ、一定の条件さえ満たせばいつでも爆発する可能性のある物には間違えありませんから、基本的には危険物である事に変わりないんですけれども。
私が抜本的な対策ということで申し上げたい事があるとするならば、今、油回収船の話がありましたけれど、日本はほとんど原油については輸入に頼っています。99点数パーセントほとんど油の製品によって国民の、ある意味では日本人の生活が成り立っていると言っても良いと思うんですね。化学製品を含めて。ところが肝心の油回収船そのもの、それらしいと言う物は一隻しかない状況ですから、私共油回収について素人の船乗りでさえ、もう少しタンカーの入る所には油回収船等が配備されていてもおかしくないんではないかと言う感覚は持つんですね。私共はこういう物は主要な港にはきちんと配備すべきだと、これは国の責任ではないかと思うのですが、大槻先生のお話によると色々担当する官庁が努力していても財政事情で難しい側面もあるということでしたけれども、やはりこれをずっと辿って行きますと一番根本に行き着くのは、10年に一度起きる事故、起きた時に大騒ぎしますけれども1年経つとまた皆忘れてしまう。
つまり10年に一度起きるかもしれない事故のためのコストを誰が負担するのか。あるいは負担する覚悟はあるのかどうかと言う、やはり国民ひとりひとりが考えるべき問題に行き着くんではないだろうかという気がします。言い方を変えると日本人はある意味では経済性だけで安ければ良いんだという考え方にあまりに慣れすぎているんではないかと。これは先程の説明の中で言いましたけれど、私共船乗りの立場で言えば例えば賃金が六分の一と言われる途上国の船員に、船費が安いという事情だけで他の事情は全く考慮されずに、極めて短い期間に変わって行くんですね。現実にはその為に事故が起こるとか増えるとか言う問題があるわけです。しかし安ければ良いという感覚、経済性だけを優先するという考え方がやっぱりどこかにあるんではないか。これは政府だけを責めるとか言うのじゃなくて、私共の考え方の中に、生き方の中にそのような問題というのがあるのではないかということを考える必要がある。
二つ目もこれに関連するんですが、抜本的な対策のひとつで、水深15メートル以上のような巨大船を東京湾の中に入れる事自体がおかしいんではないかと言う議論があるんですが、これを見方を変えると、例えば東京湾内だけでも根岸、川崎、千葉、こういう所には巨大な精油所があります。その巨大な精油所と言うのは30万トン一度に運べるような船を入れるという前提で造られているんですね。そういう精油所が現実にあるんですよ。そういう精油所がまた東京の近くにあり、横浜の近くにあり、川崎にありということで、つまり消費者と直接結びつくような場所に置かれているんだと。コストが安いわけですよね。私共はそういう前提の上で大都会の生活が成り立っているという側面もあるんだと思いますよ。こういうことを考えて言いますと、喫水15メートル以上の巨大船を東京湾に入れるか入れないかと言う事も確かに重要です。しかし私共の生活がすでにすべてそういう側面で全部組み合わされている。そういう生活の上に我々が成り立っているということを考えないと、なかなか基本的に物事を本質的に掴み、そして本質的に考えて行くっていうことに結びつきにくいんじゃないかとないかとの印象を個人的には持っているんですがね。
安田 その事は個人によってかなり考え方がも違うと思います。産業構造のあり方、ライフスタイル、我々の生活自身が油浸けになっているわけです。そしてゴミを大量に出して南本牧に埋め立て、東京では東京港の中央防波堤が満杯になってしまうということで、検疫錨地を外へ出して新海面処分場を造る。それでも5〜6年しかもたない。そういうような産業構造や大量生産、大量消費型の生活が大量廃棄型の生活をもたらしているわけで、ある意味では文明論の話とか哲学的な問題になると思いますが、そこまで行くと大変ですので本質的な対応の問題を、例えば田尻さんが指摘した東京湾横断道路の危険性等ないのかどうか、南本牧も埋め立てるということで漁場も航路も小さくなる。それから錨地もほとんどなくなるということをお伺いしていますが、そう言う問題を含めて個人的なお考えをお聞かせ願えればと思います。
川俣 確かに原則的なお話しをしましたけれど、具体的に言えば私共船乗りの立場から言えば、ひとつはやはり東京湾全体を包括するような交通システムを早急に抜本的な問題として確立する必要があるだろうということなんです。
当然ご指摘のように港を使う立場からすれば、あんまり余分な物を造られたりしない方がいいということなんです。私も昔、東京湾の港湾審議会に入っていた時に、埋め立てもゴミ処理をする場所がなくなって捨てられないのでしょうがないから今まで造っていた埋立地の先の方にやらざるを得ないというような話になってきまして、船の錨地が無くなるので大変な問題になった事がありました。つまり利害関係者がきちんとこう言った問題で話す。そして一方的な造成や埋め立てだとかじゃなくて、色々な問題点をきちっと皆で議論しながら進めるというシステム。こういうものも基本的には必要になるだろうと思います。
渡辺 産業の発展とか交通の安全を考えますと、我々を無視した方法でやれば安全性は保たれるのかなと思いますけれども、海は国民皆のものでございますので、我々の意見も取り入れてお互いにうまく営業できるように話し合いをしていただきたいと考えています。
三好 ここに抜本的な対策として三つ程挙げられているんですけれども、これは正直言って私共港湾整備の基本的理念にも関わってくる大切な問題じゃないかなと考えております。川俣さんからも話がありました通り、タンカーにつきましては当然の事ながら国のエネルギー政策との関連があります。エネルギー政策に伴う港湾整備、国の政策の中でつながる港湾整備と言う形になって来ますので、港湾整備そのものが国土の開発、利用、保全というような視点から検討して行かなければならないものであります。従いまして、この三つの課題につきましては私共も港湾政策あるいは港湾整備の政策の中できっちりとその考え方を示して行きながら、これらの問題ひとつひとつに対応して行きたいなと考えております。
大槻 素人の立場から言いますと、やはり基本的には21世紀に向けて日本がどういう国になるのかと言う目標次第によって、どう産業の構造を変えて行くかっていうことでみんな変わってくると思うんです。ですから私、今回一番気付いておりますのは、やはり政治家の責任だろうと思っています。
一柳 私も市議会議員という立場では政治家の端くれと認識しておりますので、大槻先生が最後に言われたのが端的な表現だと思います。今までこういう論議、例えば第十雄洋丸(*18)あるいはなだしお(*19)の事件、なだしおの事故の時はある政党サイドから、だから自衛隊はけしからんて言う意見はたくさん出ましたけれども、じゃあこの際、川俣さんがおっしゃっているいるような湾全体の危機管理をどうしようかと言う議論にはとうとう結びつかなかったと思います。
それから公共事業のあり方。東京湾横断道路は1兆4千5百億円でしたっけ、何万台通るか分からない横断道路よりも、これからはやはり日常の災害防止とか環境の維持という方に投資の仕方を変えると。これは言われているように、その方式を官僚に任せるということではもう駄目ではないかと。やはり基本的にはこれは国会で議論するし、あと2年後には地方分権法の具体論が出てくるわけですから、港湾計画についても地方分権の立場から考えて、やはり政治家がこういう立場でそれぞれの専門家と意見を交換しながらやって行かなければならないと思います。
もうひとつは油処理剤の問題。あれは全部運輸省で許可しているわけですね。その情報の開示の仕方が私はまだ問題があると思います。ナホトカ号の時も実はほとんど報道されていない処理の仕方で6割処理されているということを、この間知りました。
じゃあ何で報道しないんですかと言うと、担当者は報道陣がごちゃごちゃうるさくてしょうがないからとシャットアウトしたところで、例えば沖合だとクレーンで重油のかたまりをすくっているんですね。マスコミ報道されたのはボランティアが岩を拭いたりしている映像ばかりでしたけど、あれよりもっと多く効率的に処理したのはバキュームカーを大量動員して吸い取った。さらに崖下何十メートルもあってバキュームカーのホースが届かない所では、コンクリートミキサー車があって、今何百メートルも圧送出来るのがありますね、あれのポンプを逆回転して吸っちゃったと、そういう対策をやっていた。ところがこれが全然報道されていない。マスコミはがたがた言うから入れないのは当然だと運輸省の関係者は言うんですけれども、それではアカウンタビリティー(*20)の問題が出ます。公務員が税金を使ってこういう処理をしているんだと、報道機関を通じるなり、報道機関がうるさくてしょうがないなら自らが発表すればいいんです。やっぱり情報公開が進んでいない。情報公開が進んでないのもまた政治家の質が問われる事ではないかと思います。
この先は安田先生にまとめていただきたいと思います。
安田 今、政治家の責任というのが出ました。確かに政治家の責任が第一次的には重要だと思うのですが、結局政治家を動かすのは最終的には国民、市民なわけです。
やはり国民、市民がこう言った問題にきちんと関心を持ってこれに対して積極的に提言したり、行動したり、この会もボランティアなわけですが、そういう形で逆に政治家を動かして行く、もしくは政治家と一緒にやっていくということが重要だと思います。
これに関して先程、海上交通に関して東京湾全体を管理する交通システムや法律が必要だという話がありましたが、私の論文(環境と公害)にも紹介してありますが、アメリカのサンフランシスコ湾ではカリフォルニア大学の学生や市民運動の方が一緒になってサンフランシスコ湾を救え(Save The Bay)という運動が起きて、連邦議会の二人の議員の議員立法でサンフランシスコ保全開発委員会というものをつくりました。
サンフランシスコの開発、例えば岸から300フィート以内はすべてその委員会の許可がいるというような法律が出来て、危機的状況にあったサンフランシスコ湾を統一的に保全開発しようと言ったものです。まず保全があるわけですね。
そういうような形で市民運動、政治家一緒になって、それぞれの役割分担をきちんと果たしながらやって行くというのが今後の大きな課題なんじゃないかなと考えています。そう言う意味ではこれを単なる一回のシンポジウムに終わらせないで、是非第二ラウンド、第三ラウンド、さらには国会、地方議会で論議していただき、場合によっては議員立法で法律をつくって行くとか、そのような形で私達の東京湾を安心できる、環境の素晴らしい東京湾にしていきたいと考えております。
まとめになっていないと思いますが、非常に長時間、休みもせずご協力いただきましてありがとうございました。これで「どうする東京湾!タンカー事故緊急シンポジウム」パネル討論を終わらせていただきます。
ありがとうございました。