イントロダクション
神奈川県川崎市川崎区東扇島。ここは垂直護岸に覆われた京浜工業地帯の一角です。
東京湾海洋研究会では、1998年5月に開催された「かわさきノリづくり祭」(川崎の海の歴史保存会主催)への協力として、川崎港の水中映像上映を行いました。この行事は旧川崎市漁業協同組合の有志が、川崎の漁業の歴史と伝統、海の豊かさ、そして自然と触れ合う大切さを周知するために実施したものです。私たちはこの行事を通して川崎臨海部で再び人々が水と親しめる環境が再生されることを望み、実現に向けて活動しています。
今回は川崎市港湾局の協力により東扇島の川崎南防波堤内で潜水を行いました。これはそのときに撮影したVTR映像に撮影者の解説を加えたものです。
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橋本和則(はしもと かずのり)
東京湾海洋研究会副会長。全日本潜水連盟指導員。 |
東京湾の色々な場所に潜って撮影をしてきましたが、川崎の海で撮影をするのは今回が初めてです。
川崎の海の中というものは周囲の環境から見て、生物相は少ないだろうと思っていました。それは、すべて埋め立てによる垂直護岸であり、ビオトープ海域という生物復活の場が無いということから想像していたわけです。今回潜水した場所は東扇島の川崎港で、海に入るときには岸壁から3〜4メートル下の海面に飛び込み、上がるときには梯子からでなければ上がることが出来ないような場所です。そこは普段、釣り人以外は近づかないようなところです。岸壁の上には乾燥したヒトデが散乱しており、そのヒトデはおそらく釣り針にかかってしまう外道で、水中に沢山いると推測できます。
潜水を開始した垂直の岸壁にはフジツボ、カキ、ナマコ、ムラサキイガイ、ミドリイガイ、ユウレイボヤ、イッカククモガニ、ヒトデ、イトマキヒトデ、イソギンチャク等が生息し、護岸寄りの水深は3.5メートル位で、水底はムラサキイガイの殻でほとんど表面が覆い尽くされており、透視度は2〜3メートルあります。
岸から沖合へ15メートル程離れると徐々に深度を増し、水深15メートル位のところまで潜水しました。底質も貝殻から、ほんの少し泥の混じった砂地へ変わってきます。岩やコンクリートの固まり、タイヤ、鉄工等の捨てられた人口構造物が点在し、所々アイナメがひそんでいます。深い所へ行くに従い、ヘドロの厚みが増し、水深15メートル位で急に落ち込みがあり、岩礁地帯のようになっていて、メバルが群れています。底質はヘドロで透視度も悪くなります。
このあと写真と共にその様子を説明していきます。
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ムラサキイガイとそれらを食べに集まるヒトデ。 波によって落ちたムラサキイガイも腐ることなくヒトデに補食され、積み重なった貝殻の間には他の生物が住み、それなりの環境が成立している。 |
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アカオビシマハゼとギンポ、クロガネイソギンチャク等。 水深4メートル位の所で、砂地と貝殻の上に一層泥が被っている。このあたりのムラサキイガイは殻だけだった。 |
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同じ水深でも場所が変わると、ゴミや空き缶などが多いところもある。 アカオビシマハゼには空き缶などの中に入る習性があり、この時期、空き缶の中に産卵された卵に雄が常に新しい海水を送り、見守っている。 |
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水深5.6メートルの所で、底質は砂地の上に一層の泥、周囲にはコンクリートの固まりや岩等が点在し、その岩にカサゴがついている。 岩礁域に生息するカサゴがいるということは、この辺りにはそのような環境があると考えられる。 |
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水深5メートル位の底質を手で掘りながら確認していくと、表面は一層泥に覆われているがヘドロという感じは無い。所々砂が表面に出ているのを見ると、砂の中の生物が掘り出したものではないかと思われる。 そのような砂の中にバカガイ(アオヤギ)がいた。しかし、アサリは見あたらなかった。 |
| 水深4メートル位の所で、まさかここにこんなにきれいなワカメがあるとは思わなかった。他の場所にもいくつか見られた。 |
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ここから先の写真は、岸壁から離れた沖の方に護岸工事で使用した旗がいくつか立っており、そこを目安に沖から岸壁までを調査したもの。 その旗を水底からつなぐロープにも多くの生物が付着しており、貝の卵と思われるものが螺旋状に連なっていた。 ロープのつながった先の水底はヘドロが厚く積もり、水深7.1メートル、透視度10センチメートル程で、真っ暗なためライトとコンパスにて岸方向に移動した。 |
| ヘドロの積もった中に岩があり、その割れ目の中にイシガニがいる。 |
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クモヒトデ。指先と比較すると大きさがわかる。 ピョコピョコと逃げ回り面白い動きをするのでしばらく追い回していた。 |
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イッカククモガニ。よく見ると右手に持っているのは餌ではなくメスである。 繁殖力の旺盛なこの種は外国から来て、東京湾で増え続けている。この強引なアプローチはそのことを物語っているようだ。 |
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コウイカの卵塊。水深5メートル位の砂地に産み付けられている。 まるでイソギンチャクのように見えるこの卵塊は、卵を守る擬態という説もあるとか。この半透明な袋の中に見える粒がひとつの卵で、まだイカの姿は無い。半透明な袋(卵嚢)は産卵後、水分を吸収して膨らみ、卵を守る。 |
| 岩の塊に寄り添うアイナメは30センチメートル以上のサイズだった。 |
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ミノウミウシの仲間。 今までにあまり見たことが無いようなものだった。東京湾には多くの外来種が入ってきているので、まだまだ和名の無い種類が多い。それは沢山の外国船が出入りしているという理由の他に、東京湾の中を観察する機会が少ないからだと考えられる。 |
東京湾の中でも京浜工業地帯は、海が無い、魚などいないと一般的に思われている場所ですが、ここにも生命は豊富に生息しています。この場所は関係者以外立入禁止となっていますが、休日になると多くの釣り人が訪れます。殺風景な周囲の景色や釣果が上らないこともあり、魚など少ししかいないのではないか、底の方で死んでいるのではないかと皆口を揃えて言います。しかし、今回の映像や潜水したダイバーの話を聞いて、驚きの表情と共に目を輝かせていました。彼らはまた休日になると立入禁止の柵をくぐってこの場所に通うことでしょう。
このように、海は人々の憩いの場にもなっています。それだけではなく、海や生きものに接することが人々の心に豊かさをもたらします。是非、市民が楽しく過ごすことが出来る海岸が復活する事を期待し、活動を続けていきたいと思います。
今回の撮影には東京湾海洋研究会の橋本和則の他に、東京湾の水中映像をビデオで記録している石井彰さん、水中カメラマンの中野淳彦さんのお二方にご協力いただきました。心よりお礼申し上げます。
*このページに掲載されている水中画像は、すべてビデオキャプチャです。